「創業するなら、まず日本政策金融公庫に相談するとよい」と聞いて、調べ始めた方も多いと思います。公庫の創業融資は、実績のない創業期でも借りやすい一方で、制度の名前や条件がここ数年で変わっており、古い情報のまま準備を進めてしまう人も少なくありません。

この記事では、日本政策金融公庫の創業融資の中心になる制度「新規開業・スタートアップ支援資金」の条件、申し込みから融資までの流れ、必要書類、面談と創業計画書で見られる点を、公庫の公式情報をもとに整理します。税理士事務所での実務を含め、これまで30社以上の中小企業を支援してきた合同会社種火が、実務の視点で解説します。

日本政策金融公庫の創業融資とは

日本政策金融公庫(公庫)は、国が出資する政策金融機関です。個人事業主や小規模な会社への融資は「国民生活事業」が担当しており、創業期の方への融資にも力を入れています。

民間の銀行は、決算書で返済の実績を確かめてから貸すのが基本です。創業期はその実績がないため、銀行だけでは借りにくいのが実情です。公庫は、実績のない創業者でも、事業計画と本人の準備の状況をもとに融資を判断します。

公庫の創業融資の主な特徴(公式Q&Aより)
・契約時の金利が最後まで変わらない固定金利
・返済期間が長い(運転資金10年以内、設備資金20年以内)
・元金の返済を待ってもらえる据置期間を設定できる(5年以内)
・創業期の方は、原則として無担保・無保証人で利用できる

出典:日本政策金融公庫「創業融資 Q&A」

中心になる制度「新規開業・スタートアップ支援資金」

公庫で創業するときに使う代表的な制度が「新規開業・スタートアップ支援資金」です。条件は次のとおりです(2026年9月時点、公庫の制度ページ)。

対象新たに事業を始める方、または事業開始後おおむね7年以内の方
使い道事業を始めるため、または事業開始後に必要な設備資金・運転資金
融資限度額7,200万円
返済期間設備資金 20年以内、運転資金 10年以内(いずれも据置期間5年以内)
利率基準利率。条件に当てはまる方は特別利率
担保・保証人希望を聞きながら相談して決める

対象には「適正な事業計画を立てていて、その計画をやり遂げる力が十分あると認められる方」という条件もついています。つまり、審査の中心は事業計画です。

「新創業融資制度」はもうない

以前は、無担保・無保証人で借りられる創業向けの枠として「新創業融資制度」(上限3,000万円)がありました。2024年4月の見直しで、税務申告を2期終えていない方が無担保・無保証人で借りられる限度額は、新規開業資金の中で7,200万円に引き上げられました(公庫のニュースリリース)。さらに2025年3月には、スタートアップも使えることが分かりやすいよう、「新規開業資金」の名前が「新規開業・スタートアップ支援資金」に変わっています(公庫のお知らせ)。

インターネット上には、古い制度名や上限額のままの情報も残っています。申し込み前には、必ず公庫の制度ページで最新の条件を確かめてください。

利率が下がる特例(特別利率)

次のような条件に当てはまると、基準利率より低い特別利率が使えます。主なものを挙げます。

  • 女性、35歳未満、または55歳以上の方
  • 市区町村の「認定特定創業支援等事業」を受けて証明書をもらった方
  • 中小企業の会計に関する基本要領などを適用し、認定経営革新等支援機関の指導や助言を受けている方
  • ベンチャーキャピタルなどから出資を受ける方
  • 地域おこし協力隊の方や、Uターンなどで地方で創業する方
  • 技術やノウハウに新しさがある方

このほかにも条件があり、どの特別利率になるかは条件によって違います。利率の数字は見直されることがあるため、公庫の制度ページで確認します。市区町村の「特定創業支援等事業」は、創業セミナーなどを受けると証明書がもらえる仕組みで、利率のほかに登録免許税の軽減などにつながることもあります。住んでいる市区町村で実施しているかを、創業の準備と並行して調べておくと損がありません。

公庫・制度融資・銀行の違い

創業時の借入先は、公庫だけではありません。自治体・信用保証協会・金融機関の3者が関わる「制度融資」もあります。

日本政策金融公庫制度融資(保証協会付き)銀行のプロパー融資
創業期の借りやすさ借りやすい借りやすい実績がないと難しい
申し込み先公庫の支店・インターネット自治体の窓口や金融機関金融機関
かかる費用利息利息と保証料(自治体の補助がある場合も)利息
その後の取引公庫との取引が続く地元の金融機関との取引が始まる同じ

公庫と制度融資は、どちらか一方ではなく、両方を使うこともできます。創業後に地元の金融機関と取引を始めておきたいなら制度融資、手続きを一か所で済ませたいなら公庫、というように、事業の先を見て選びます。個人事業主の場合の使い分けは個人事業主の創業融資で詳しく解説しています。

申し込みから融資までの流れ

公庫の案内では、創業予定の方の手続きは次の5つのステップで進みます(公庫「お申込からご融資の流れ」)。

1. 相談

電話や予約相談で、使える制度や手続きを確認します。支店の創業担当の窓口のほか、スタートアップ向けには東京・名古屋・大阪・福岡に「スタートアップサポートプラザ」が設けられています。

2. 申し込み

インターネットで24時間申し込めます。郵送でも申し込めます。創業計画書などの書類もこの段階で提出します。

3. 面談

お金の使い道や事業計画について、担当者から話を聞かれます。店舗や事業所の予定地を見に来ることもあります。オンラインでの面談にも対応しています。

4. 融資

融資が決まると、契約の手続きの案内があり、契約後に融資金が振り込まれます。

5. 返済

原則として毎月の返済です。据置期間を設けた場合は、その間は利息だけを払います。

据置期間は長ければよいわけではない

据置期間を設けると、開業直後の返済の負担を軽くできます。売上が立ち上がるまでに時間がかかる事業では助けになります。

ただし、据置期間中は元金が減りません。返済期間には据置期間も含まれるため、据置を長くするほど、残りの期間で元金を返すことになり、毎月の返済は重くなります。据置期間が終わる月の資金繰りまで見通したうえで、期間を決めます。

期間は平均3週間程度。開業日から逆算する

公庫のQ&Aでは、申し込みから融資までは平均的に3週間程度とされています。ただし、条件によってはもっと時間がかかります。書類の準備や、店舗の契約・見積もりの取得を含めると、準備を始めてから入金まで1〜2か月は見ておきたいところです。

注意したいのは、店舗の場所が決まっていないと資金計画が固まらないことです。公庫も、出店する場所を決めてから申し込むよう案内しています。物件の契約や内装工事の支払い時期と、融資の入金時期がずれないように、開業日から逆算して動きます。

必要書類と創業計画書

主な必要書類

  • 創業計画書
  • 設備資金を申し込む場合は、その見積書
  • 法人の場合は、履歴事項全部証明書(登記簿謄本)
  • 運転免許証などの本人確認書類
  • 許認可が必要な業種は、その許認可証

このほか、状況に応じて追加の書類を求められることがあります。自己資金の貯め方を確かめるため、預金通帳の提示を求められることもあるので、準備しておくと面談がスムーズです。

創業計画書は4つのまとまりで考える

創業計画書の様式は、公庫のサイトからPDFかExcelでダウンロードできます(公庫「創業計画書の書き方」)。書く内容は、大きく4つに分けられます。

  1. 創業の動機と経営者の経歴:なぜこの事業をするのか。これまでの経験が事業とどうつながるのか
  2. 商品・サービスと取引先:何を、誰に、いくらで売るのか。仕入先や販売先は決まっているか
  3. 資金計画:開業に必要なお金の内訳と、それを自己資金・借入などでどうまかなうか
  4. 収支計画:開業後の売上・経費・利益の見通しと、その根拠

4つのうち、審査で特に詳しく見られるのは、資金計画と収支計画の根拠です。欄ごとのつまずきやすい点は個人事業主の創業融資で、事業計画書全体の考え方は事業計画書の作り方で解説しています。

申し込み前のチェックリスト

  • 店舗や事務所の場所が決まっている(賃貸なら条件がわかっている)
  • 設備や内装の見積書がそろっている
  • 自己資金の額と、貯めてきた経過を通帳で示せる
  • 売上の見込みを、客数・単価・見込み客などの根拠で説明できる
  • 開業に必要な許認可の手続きの見通しが立っている
  • クレジットカードや税金・公共料金の支払いに遅れがない

自己資金はいくら必要か

新規開業・スタートアップ支援資金の条件に、自己資金の要件は書かれていません。公庫のQ&Aでも、大切なのは創業計画全体がしっかりしているかどうかだとしています。

そのうえで、公庫の調査では、創業資金の総額に占める自己資金の割合は平均で2割程度という結果が紹介されています。自己資金が少ないから申し込めない、ということはありませんが、まったくない状態では、計画の実現性を説明するのが難しくなります。

金額と同じくらい見られるのが、どうやって貯めたかです。毎月少しずつ積み立ててきたお金は、計画的に準備してきた証拠になります。一方、申し込みの直前に誰かから入金されたお金は、自己資金として見てもらえないことがあります。自己資金として認められやすいもの・認められにくいものは個人事業主の創業融資にまとめています。

面談と審査で見られること

面談では、創業計画書に書いた内容を、本人の言葉で説明できるかが確かめられます。よく聞かれるのは次のような点です。

  • なぜこの事業を始めるのか、なぜ今なのか
  • これまでの経験は、事業のどこに生きるのか
  • 売上の見込みの根拠は何か(客数や単価、見込み客の有無)
  • 借りたお金を何に使うのか(見積書と合っているか)
  • 自己資金をどう貯めてきたか
  • 売上が計画を下回ったとき、どうするか

このほか、本人の信用情報も確認されます。クレジットカードやローンの支払いの遅れ、税金や公共料金の滞納があると、審査に影響することがあります。心当たりがあれば、申し込む前に整理しておきます。

代表 早見 文博より
面談は、計画書の内容を覚えて話す場ではありません。数字の一つひとつに「なぜその金額なのか」を答えられるかが大切です。売上の見込みを高く書くより、控えめな見込みでも返済できる計画のほうが、話はずっと進めやすくなります。

審査で見られる点の考え方は、創業後の銀行融資でもほぼ同じです。銀行融資を受けやすくする方法もあわせて参考にしてください。

個人と法人で違うこと

公庫のQ&Aでは、融資の申し込みについて個人と法人で大きな違いはないとしています。違いが出るのは次のような点です。

  • 法人は、履歴事項全部証明書などの書類が必要になる
  • 資本金の払い込みに使うお金は、融資の対象外。法人は設立登記を済ませてから申し込む

法人ならではの論点(資本金と自己資金の違い、法人成りの場合の扱い、設立前後のどちらで申し込むか)は法人の創業融資で解説しています。

通らなかったときと、借りた後のこと

融資が見送られたときは、すぐに別の金融機関へ同じ計画を持ち込むのではなく、何が足りなかったのかを整理します。自己資金が少なかったのか、売上の根拠が弱かったのか、使い道が曖昧だったのか。原因を直してから、時間をおいて相談し直すか、制度融資など別の方法を検討します。

借りた後は、毎月の返済を約束どおり続けることに加え、決算書ができたら公庫に届け、事業の状況を伝えます。創業期の返済の実績は、次の融資や、民間の金融機関との取引を始めるときの土台になります。そのためにも、開業したらすぐに帳簿をつけ、毎月の数字を出せる状態をつくっておくことが大切です。

相談先

最初の相談は、公庫の支店の窓口で無料でできます。事前に予約しておくと、落ち着いて話を聞いてもらえます。市区町村や商工会議所の創業相談、よろず支援拠点なども無料で使えます。

創業計画書を一緒に作ってほしい、面談の準備を手伝ってほしいという場合は、税理士や財務の専門家に頼む方法もあります。費用の目安や選び方は創業融資のサポートとは、創業融資を税理士に頼むべきかにまとめています。創業融資以外の資金調達の方法は資金調達とはで全体を整理しています。

よくある質問

Q. 事業を始めてからでも申し込めますか?

A. 申し込めます。新規開業・スタートアップ支援資金は、事業開始後おおむね7年以内の方も対象です。

Q. 担保や保証人は必要ですか?

A. 公庫のQ&Aでは、創業期の方は原則として無担保・無保証人で利用できるとしています。具体的には、希望を聞きながら相談して決めます。

Q. 融資までどのくらいかかりますか?

A. 公庫のQ&Aでは、平均的に3週間程度です。条件によってはもっとかかるため、書類の準備を含めて余裕を持って動きます。

Q. 自己資金がゼロでも借りられますか?

A. 制度の条件に自己資金の要件はありません。ただし、公庫の調査では創業資金に占める自己資金の割合は平均2割程度で、まったくない場合は計画の実現性を説明しにくくなります。

Q. 公庫と制度融資は両方使えますか?

A. 使えます。必要な金額や、創業後にどの金融機関と取引したいかによって組み合わせを考えます。

Q. 創業計画書は自分で書いたほうがよいですか?

A. 専門家に手伝ってもらっても構いませんが、面談で説明するのは本人です。数字の根拠や事業への思いを自分の言葉で話せるよう、内容を理解したうえで仕上げます。

Q. 一度断られたら、もう申し込めませんか?

A. 申し込めないわけではありません。ただし、同じ内容のまま申し込み直しても結果は変わりにくいため、何が足りなかったのかを整理し、直してから相談します。

まとめ|公庫の創業融資は「最新の条件」と「計画の根拠」で決まる

日本政策金融公庫の創業融資の中心は、新規開業・スタートアップ支援資金です。限度額は7,200万円、事業開始後おおむね7年以内まで使え、創業期は原則として無担保・無保証人で利用できます。制度の名前や条件はここ数年で変わっているため、申し込み前に公庫の公式ページで確かめることが欠かせません。

審査の中心は創業計画書です。売上の見込み、お金の使い道、自己資金の貯め方を、根拠とあわせて自分の言葉で説明できるように準備しておきましょう。

種火では、創業計画書の作成や面談の準備を含めた創業融資の支援を行っています。開業後の記帳や毎月の数字づくりまで、まとめてご相談いただけます。創業後の資金繰りや金融機関とのやり取りまで継続して見てほしい場合は、社外CFOサービスで伴走しています。

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