「個人事業主だと融資は借りにくいのでは」と考える方は多いのですが、創業融資に関して言えば、法人か個人かで審査の通りやすさが大きく変わることはありません。

日本政策金融公庫の創業融資は、法人・個人のどちらでも申し込めます。審査で見られるのは事業形態ではなく、事業の中身と自己資金と経歴です。

この記事では、個人事業主が創業融資を受けるときに知っておくべきことを、いくら借りられるか、何を見られるか、どう準備するかの順で整理します。

個人事業主が使える創業融資は主に2つ

創業時に現実的な選択肢は、次の2つです。

日本政策金融公庫の新規開業・スタートアップ支援資金

政府系金融機関からの直接融資です。個人事業主の創業融資では、まずここが検討されます。

項目 内容
融資限度額 7,200万円
返済期間 設備資金20年以内/運転資金10年以内
据置期間 5年以内
担保・保証人 原則不要の制度あり
期間の目安 申し込みから着金まで1か月前後

限度額は大きく設定されていますが、創業時に実際に出るのは自己資金との兼ね合いで決まります。実務上は数百万円から1,000万円台が中心です。

無担保・無保証で借りられる点が、創業時にはとくに大きな意味を持ちます。

制度融資(自治体・信用保証協会・金融機関の3者)

自治体が利子や保証料の一部を補助し、信用保証協会が保証をつけ、民間の金融機関が実際に貸す仕組みです。

3者が関わるため手続きに時間がかかり、着金まで2〜3か月を見ておく必要があります。そのかわり、自治体によっては利子補給が手厚く、実質負担が公庫より軽くなることがあります。

条件は自治体ごとに違うので、開業予定地の自治体の制度を確認してください。

併用が基本

創業時は、公庫と制度融資の併用が基本線です。片方だけより調達額を増やせます。ただし同時に申し込むと、両方の審査で「もう片方にも申し込んでいる」ことが分かるため、資金使途を明確に分けて説明できるようにしておく必要があります。

いくら借りられるのか

もっとも気になる点だと思います。実務上の目安は次のとおりです。

自己資金の2〜3倍が一つの目安

自己資金100万円なら200〜300万円、300万円なら600〜900万円というイメージです。

これは制度上の決まりではなく、審査の実態としてそうなりやすいという話です。自己資金が多いほど、事業への本気度と計画性が示せるため、結果として調達額も伸びます。

実際は「必要額の根拠」で決まる

とはいえ、自己資金だけで決まるわけではありません。もっと重要なのは、その金額が必要な理由を説明できるかです。

たとえば飲食店を開くとして、「1,000万円借りたい」ではなく、次のように積み上げられているかどうかです。

  • 内装工事 450万円(見積書あり)
  • 厨房設備 280万円(見積書あり)
  • 保証金・礼金 120万円(契約書あり)
  • 開業から6か月分の運転資金 250万円(月次収支計画から算出)

見積書や契約書という裏付けのある設備資金は、審査で評価されやすい傾向があります。逆に運転資金は根拠が示しにくいため、月次の収支計画で「いつまで赤字が続き、いくら必要か」を数字で示す必要があります。

業種による違い

同じ自己資金でも、業種によって出やすさは変わります。設備投資が明確な業種(飲食、美容、整体、製造など)は必要額が説明しやすく、逆にコンサルティングや士業のように初期投資が小さい業種は、そもそも大きな金額を必要とする理由がないため、調達額は小さくなります。

自己資金はいくら必要か

目安は必要額の1〜3割

制度上の下限は設けられていませんが、実務上は必要額の1〜3割程度が求められます。1,000万円の資金が必要なら、100〜300万円ということです。

金額より「どう貯めたか」

ここが最も誤解されやすい点です。審査で見られているのは、残高そのものより貯め方です。

通帳で毎月コツコツ積み立てた形跡がある資金は、高く評価されます。計画的にお金を扱える人だと分かるからです。

一方、申し込み直前に一括で入金された資金は「見せ金」とみなされます。親族から一時的に借りて残高を作り、融資が下りたら返す。担当者はこのパターンを熟知しているので、通帳の動きを見ればすぐ分かります。見せ金が発覚すると、その時点で審査は極めて不利になります。

だから創業融資の準備は、通帳を作ることから始まるとも言えます。半年から1年かけて積み立てた記録が、そのまま評価につながります。

自己資金として認められるもの・認められにくいもの

認められるもの

  • 給与から積み立てた預貯金
  • 退職金
  • 親族からの贈与(贈与契約書があり、返済不要であることが明確な場合)
  • 保険の解約返戻金

認められにくいもの

  • 借入によって用意した資金(カードローンなど)
  • 出どころを説明できない現金(いわゆるタンス預金)
  • 一時的に借りて申し込み後に返す資金

タンス預金は、たとえ本当に自分で貯めたお金でも、通帳の記録がないため証明できません。手元に現金がある場合は、早めに口座へ入れて記録を残してください。

審査で見られる4つのこと

1. 自己資金

前述のとおりです。金額と貯め方の両方が見られます。

2. 経歴(事業との接続)

これから始める事業と、これまでの経験がつながっているかを見られます。

飲食店を開くなら飲食店での勤務経験、美容室なら美容師としての経験、というように、同業種での実務経験があると評価されます。目安として6年以上の経験があると強いとされますが、年数だけでなく、店長やマネージャーとして数字を見ていたか、といった役割も見られます。

未経験の業種で始める場合は、この点をどう補うかが焦点になります。研修を受けた、フランチャイズ本部の支援がある、共同経営者が経験者である、といった形で実現性を示す必要があります。

3. 事業計画の実現性

創業計画書と数値計画で示します。

審査で落ちる計画書の多くは、売上に根拠がありません。「初年度1,200万円」とだけ書かれていても、その数字がどこから来たのかが分からない。

売上は分解して示してください。飲食店なら「客単価3,000円 × 1日30人 × 月25日営業 = 月225万円」のように、各項目に根拠を持たせます。客単価はメニュー構成から、客数は席数と回転率から、というように積み上げます。

4. 信用情報

税金や社会保険料の滞納、クレジットカードやローンの延滞歴があると、審査は厳しくなります。

とくに税金の滞納は、その時点で融資が難しくなります。心当たりがある場合は、まず完納してから申し込んでください。

延滞歴については、信用情報機関に照会すれば自分で確認できます。過去の延滞が記録に残っている場合、記録が消えるまで待つという判断も必要になります。

個人事業主ならではの注意点

生活費と事業資金を分ける

個人事業主でもっとも多い問題がこれです。事業用と生活用の口座を分けていないと、通帳を見ても事業の実態が分かりません。

創業融資の申し込み前に、事業用の口座を必ず作ってください。審査でも見やすくなり、開業後の経理も格段に楽になります。

確定申告の有無

すでに副業などで事業を始めている場合、直近の確定申告書の提出を求められます。

このとき、節税のために所得を圧縮していると、返済能力が低いと判断される可能性があります。融資を視野に入れているなら、申告内容と融資の両立を意識しておく必要があります。

開業後7年以内なら申し込める

創業融資は開業前でないと使えないと思われがちですが、日本政策金融公庫の「新規開業・スタートアップ支援資金」(旧:新規開業資金)は事業開始後おおむね7年以内が対象です(日本政策金融公庫の新規開業・スタートアップ支援資金)。

ただし、開業後に申し込む場合は決算内容や確定申告書が審査されます。赤字が続いていると厳しくなるため、計画ベースで審査される開業前のほうが通りやすい面はあります。

法人化を予定している場合

「いずれ法人にするなら、最初から法人で借りたほうがよいのでは」と聞かれることがあります。

創業融資の審査において、法人か個人かで有利不利はほとんどありません。ただし、個人で借りた後に法人化すると、借入を法人へ引き継ぐ手続きが必要になり、金融機関との調整が発生します。1年以内に法人化する予定が固まっているなら、最初から法人で始めるほうが手間は少なくなります。

創業計画書の書き方でつまずきやすい欄

日本政策金融公庫の創業計画書はA3用紙1枚、記入欄は8つです。枚数は少ないのですが、埋め方で差がつきます。とくにつまずきやすい欄を挙げます。

「創業の動機」

ここに熱意を書き連ねる方が多いのですが、担当者が読み取りたいのは動機の強さではなく、その動機が事業の継続につながるかです。

「昔からこの仕事が好きだった」だけでは弱く、「前職で担当していた顧客から、独立するなら頼みたいと言われている」のように、動機と事業の実現性が結びついていると評価されます。

「経営者の略歴等」

職歴を時系列で並べるだけでは足りません。それぞれの職歴で何を任され、どんな数字を見ていたかを書いてください。

「◯◯株式会社 営業職 5年」ではなく、「◯◯株式会社 営業職 5年(担当エリアの売上を3年で1.4倍、部下3名のマネジメント)」と書けば、事業を回せる人だという裏付けになります。

「取扱商品・サービス」

商品名を並べるのではなく、売上構成比を書いてください。何で稼ぐ事業なのかが一目で伝わります。

あわせて「セールスポイント」の欄では、競合と何が違うのかを具体的に書きます。「丁寧な接客」のような誰でも書ける内容ではなく、立地、価格帯、提供時間、専門性など、比較可能な軸で示してください。

「取引先・取引関係等」

すでに見込み客がいる場合、ここは強力な材料になります。

前職の顧客が引き継げる、すでに契約の内諾がある、といった事情があれば必ず記載してください。可能であれば、口頭の約束ではなく発注書や覚書といった形にしておくと、実現性の裏付けになります。

「必要な資金と調達方法」

左に必要資金、右に調達方法を書き、両者の合計を一致させます。ここが合っていない計画書は、それだけで印象が悪くなります。

設備資金は見積書の金額をそのまま転記してください。端数を丸めると、見積書との突合で疑問を持たれます。

「事業の見通し」

創業当初と軌道に乗った後の、売上・売上原価・経費・利益を書きます。

ここで注意したいのは、最初から黒字の計画にしないことです。多くの事業は立ち上がりに時間がかかります。初月から黒字という計画は、かえって現実味がないと判断されます。

いつ黒字化するのか、それまでの赤字を何でまかなうのかを示すほうが、計画としての説得力があります。

借入額を決めるときの考え方

「いくら借りるか」は、審査の通りやすさだけで決めるべきではありません。返済が始まった後の資金繰りから逆算する必要があります。

月々の返済額から考える

たとえば1,000万円を7年(84か月)で借りると、元金だけで月約12万円の返済になります。これに利息が乗ります。

この12万円を、毎月の利益から支払えるかを考えてください。粗利率が30%の事業なら、返済分だけで月40万円の売上が必要になる計算です。

据置期間の使い方

公庫の融資には据置期間があります。一定期間、元金の返済を猶予し、利息のみを支払う仕組みです。

創業直後は売上が立ちにくいため、据置期間を設定しておくと資金繰りが楽になります。ただし据置期間が終われば、残りの期間で元金を返すことになるため、月々の返済額は増えます。据置6か月なら、その分だけ後の返済が重くなるということです。

据置期間は「あれば得」ではなく、いつ黒字化するかの見立てと合わせて決めるものです。

借りすぎのリスク

自己資金が十分にあり、多く借りられる状況でも、必要以上に借りるべきではありません。

手元資金が潤沢だと、判断が緩みます。売れていないのに広告を出し続ける、必要のない設備を入れる、といったことが起きます。そして返済だけが残ります。

必要額に対して2〜3割の余裕を持たせるのが現実的な線です。それ以上は、資金繰りが楽になる分だけ判断が甘くなると考えてください。

申し込みから着金までの流れ

公庫を使う場合の一般的な流れです。

1. 事前相談(任意)

公庫の支店窓口で相談できます。必須ではありませんが、自分のケースで何が必要かを確認できます。

2. 必要書類の準備

創業計画書、資金繰り表、見積書、賃貸借契約書、許認可の写し、通帳のコピー、本人確認書類などです。業種によって追加書類があります。融資の審査でも見られる資金計画の組み立て方は、事業計画における資金計画の作り方で詳しく解説しています。

3. 申し込み

窓口またはインターネットで申し込みます。

4. 面談

申し込みから1〜2週間後に面談があります。所要時間は1時間前後です。事業内容、経歴、資金使途、返済計画について聞かれます。

5. 現地確認

店舗や事務所の予定地を担当者が確認する場合があります。

6. 結果連絡・契約・着金

融資決定後、契約書類のやり取りを経て指定口座へ入金されます。

申し込みから着金まで、おおむね1か月前後です。開業予定日から逆算して、3か月前には動き始めることをおすすめします。物件契約や設備発注が先行すると、資金が間に合わなくなります。

面談で聞かれること

面談で問われる内容は、ある程度決まっています。

  • なぜこの事業を始めるのか
  • これまでの経験は事業にどう活きるか
  • 自己資金はどうやって貯めたか
  • 売上の根拠は何か
  • 競合と比べた強みは何か
  • 計画どおりに売上が立たなかったらどうするか
  • 生活費はいくら必要か

最後の2つは見落とされがちですが、重要です。担当者が知りたいのは、うまくいかなかったときにどう対応するかという現実的な備えです。「絶対に成功させます」と答えるより、「半年で目標の7割に届かなければ、固定費を◯万円削って対応します」と答えられるほうが評価されます。

生活費については、個人事業主の場合、事業の利益から生活費を賄うことになります。ここが把握できていないと、返済計画そのものが成り立ちません。

通らなかったときはどうするか

創業融資に落ちた場合、すぐに再申請しても結果は変わりません。 実務的には6か月ほど空けるのが一般的です。

大切なのは、落ちた理由を把握することです。公庫は不採用の理由を詳しくは説明しませんが、多くの場合は次のいずれかです。

  • 自己資金が不足していた
  • 経歴と事業の接続が弱かった
  • 売上計画の根拠が薄かった
  • 信用情報に問題があった

このうち自己資金と信用情報は時間で解決できます。経歴と計画は、事業内容そのものを見直す必要があるかもしれません。

いずれにせよ、同じ書類で出し直すのではなく、原因を潰してから再挑戦してください。

借りた後のほうが難しい

創業融資は、借りて終わりではありません。返済は翌月から、あるいは据置期間の後から始まります。

実際に苦しくなるのは、借りた直後ではなく6か月から1年後です。想定より売上の立ち上がりが遅く、運転資金が計画より早く減っていく。そのときに追加の資金調達をしようとしても、創業融資は一度きりです。

これを防ぐには、月次で数字を見る習慣を作るしかありません。売上と経費と資金残高を毎月把握していれば、資金がいつ尽きるかを事前に読めます。3か月前に分かっていれば打てる手はありますが、尽きてから分かっても選択肢はほとんど残りません。

合同会社種火は、福岡県大川市と熊本市を拠点に、創業融資の支援から開業後の経理・資金繰り管理までを一貫してお引き受けしています。「今の自己資金でいくら借りられそうか」「開業のタイミングをいつにすべきか」といった段階のご相談も承ります。

融資の準備から借りた後の資金繰りまで一緒に見てほしい場合は、種火の社外CFOサービスで伴走しています。

よくある質問

Q. 開業届を出す前でも申し込めますか。

はい。むしろ開業前の申し込みが一般的です。ただし物件が決まっていない、事業内容が固まっていないという段階では計画が書けないため、ある程度具体化してからになります。

Q. 副業から始める場合も対象になりますか。

対象になります。ただし本業の収入で生活が成り立っている状態だと、事業への本気度を問われることがあります。いつ専業にするかの計画を示せるようにしておいてください。

Q. 家族や友人からの借入は自己資金になりますか。

返済義務のある借入は自己資金として扱われません。贈与であれば自己資金になりますが、贈与契約書を作り、返済不要であることを明確にしておく必要があります。

Q. 融資と補助金はどちらを使うべきですか。

両方使うのが現実的です。融資は返済が必要ですが、申し込めばすぐ動けます。補助金は返済不要ですが採択率があり、原則として後払いです。補助金が入金されるまでのつなぎとして融資を使う、という組み合わせになります。

Q. 支援を受けたほうがよいですか。

調達希望額が500万円を超える、未経験の業種で始める、開業日が決まっていて時間がない、といった場合は支援を受ける価値があります。逆に300万円以下で自己資金が十分にあり、同業種の経験があるなら、自分で進められます。

Q. 融資を受けると、その後の確定申告は変わりますか。

借入金そのものは売上ではないため、収入として課税されることはありません。ただし借入金は貸借対照表に負債として計上され、返済のうち利息部分だけが経費になります。元金の返済は経費にならない点に注意してください。

「利益が出ているのに手元にお金が残らない」と感じる原因の多くはここにあります。元金返済は利益から支払われるため、返済額の分だけ手元資金は減っていきます。

Q. 屋号名義の口座は必要ですか。

必須ではありませんが、あると便利です。取引先からの信用にもつながり、事業とプライベートの区分も明確になります。開業届を出した後であれば、多くの金融機関で開設できます。

まとめ

個人事業主でも創業融資は問題なく利用できます。押さえるべき点を整理します。

  • 選択肢は日本政策金融公庫と制度融資。併用が基本
  • 調達額は自己資金の2〜3倍が目安だが、実際は必要額の根拠で決まる
  • 自己資金は金額より貯め方。見せ金は逆効果
  • 審査で見られるのは自己資金・経歴・計画の実現性・信用情報
  • 事業用口座を必ず分ける
  • 開業予定日の3か月前から動く
  • 借りた後6か月から1年が正念場。月次で数字を見る

創業融資は、事業の最初の意思決定です。無理のない金額を、無理のない期間で借りられるかどうかが、その後の数年を左右します。