領収書を封筒にまとめて税理士に渡し、あとは決算まで何もしない。「丸投げ」と呼ばれるこの形は、経理に人を割けない中小企業にとって最も手間の少ない選択肢です。
一方で、「思ったより高い」「毎月の数字が分からないまま1年が過ぎる」という声も少なくありません。丸投げには丸投げの構造的な弱点があります。
この記事では、税理士への丸投げにいくらかかるのか、記帳代行会社と税理士に分けて頼む「分業型」と比べてどうか、そして丸投げでも社内に残る作業は何かを整理します。
「丸投げ」に含まれる業務の範囲
まず、丸投げという言葉が指す範囲を確認します。一般的には次までが含まれます。
- 領収書・請求書・通帳の整理と仕訳入力(記帳代行)
- 総勘定元帳・仕訳帳など法定帳簿の作成
- 決算書の作成
- 確定申告書(または法人税申告書)の作成と提出
- 税務相談への対応
- 税務調査の立ち会い
このうち下の3つは税理士の独占業務です。税理士法により、税務代理・税務書類の作成・税務相談は税理士でなければ報酬を得て行えません。
税理士でなければできない業務(税務代理・税務書類の作成・税務相談)は、税理士法の第2条と第52条で定められています(e-Gov法令検索「税理士法」)。
税理士が記帳をどこまで引き受けるのか、記帳代行と税理士法の関係は、税理士は記帳をやってくれる?で整理しています。
逆に言えば、上の2つ(記帳と帳簿作成)は税理士の独占業務ではありません。ここを別の事業者に任せられるという事実が、後述する分業型の前提になります。
「丸投げ」と「記帳代行」は何が違うのか
検索上位には「丸投げと記帳代行の違い」を扱う記事が並びます。混同されやすいためです。整理しておきます。
| 記帳代行 | 丸投げ | |
|---|---|---|
| 依頼先 | 記帳代行会社・税理士事務所 | 税理士事務所 |
| 含まれる業務 | 仕訳入力と帳簿作成まで | 記帳+決算+申告+税務相談 |
| 証憑の整理 | 自分で整理して渡すことが多い | 袋のまま渡せることが多い |
| 申告 | 別途税理士が必要 | 含まれる |
| 費用 | 安い | 高い |
実務上の最大の違いは証憑の整理を誰がやるかです。記帳代行は「整理された証憑を仕訳に変える」ことが前提で、丸投げは「袋に入った領収書を仕分けるところから」引き受けます。この仕分け工数の差が、そのまま費用の差になっています。
したがって「丸投げは高い」と感じる場合、自分で証憑を月別に整理するだけで、記帳代行の料金帯まで下がる可能性があります。封筒に月ごとに分けるだけの作業で、年間数万円が変わることは珍しくありません。
丸投げの費用相場
個人事業主の場合
| 依頼の形 | 年間費用の目安 |
|---|---|
| 確定申告のみ(記帳は自分) | 5万〜15万円 |
| 記帳代行+確定申告 | 15万〜25万円 |
| 顧問契約で丸投げ | 20万〜40万円 |
売上規模と取引件数で変動します。売上500万円未満の小規模事業者なら、月額顧問料1万〜2万円+決算料で年間15万〜25万円が一般的な水準です。
法人の場合
| 依頼の形 | 年間費用の目安 |
|---|---|
| 顧問契約(記帳は自社) | 30万〜60万円 |
| 顧問契約+記帳代行(丸投げ) | 45万〜90万円 |
法人は決算申告が必須で、消費税の申告も加わるため、個人事業主より高くなります。記帳代行を含めるかどうかで、年間15万〜30万円程度の差が出ます。
費用が上振れする要因
- 現金取引が多く、証憑の点数が多い
- 事業用と個人用の口座・カードが分かれていない
- 領収書が整理されていない状態で渡される
- 消費税の課税事業者である(インボイス登録済みを含む)
- 複数の事業・不動産所得がある
- 過去分をまとめて依頼する
とくに2つ目と3つ目は、費用に直結します。 税理士事務所側から見ると、整理されていない証憑は仕分け作業から始まるため、その分の工数が見積に乗ります。
丸投げ型と分業型の比較
記帳と申告を分けて依頼する形が「分業型」です。記帳代行会社に日々の記帳を任せ、決算と申告だけ税理士に依頼します。
| 丸投げ型 | 分業型 | |
|---|---|---|
| 窓口 | 1つ | 2つ |
| 年間費用(個人・目安) | 20万〜40万円 | 15万〜30万円 |
| 月次の数字 | 事務所によっては年1回 | 月次試算表が出ることが多い |
| 税務相談 | いつでも可能 | 決算期中心 |
| 手間 | 最も少ない | 窓口調整が少し発生 |
| 記帳の単価 | 顧問料に含まれ内訳が見えにくい | 仕訳数ベースで明示される |
分業型が有利になるケース
- 取引件数が多い(記帳の単価差がそのまま総額差になる)
- 月次で数字を見たい
- 税務相談の頻度が低い
丸投げ型が有利になるケース
- 取引件数が少ない(記帳の負担が小さく、分けるメリットが出にくい)
- 税務判断の相談が頻繁に必要
- 窓口を増やしたくない
判断の分かれ目は「税務相談をどれだけ使うか」です。年に数回しか相談しないのに顧問料を払い続けているなら、分業型を検討する価値があります。逆に、月に何度も相談しているなら丸投げのほうが結果的に安く済みます。
記帳を切り出す場合の費用感は個人事業主の記帳代行|料金相場と税理士との違いで詳しく解説しています。
丸投げでも社内に残る作業
「全部お任せ」と言っても、次は必ず自社に残ります。ここを理解しないまま契約すると「思ったより楽にならない」と感じます。
① 証憑を集めて渡す
領収書、請求書、通帳のコピー、クレジットカード明細。これらを集めて毎月または年1回まとめて渡す作業は残ります。丸投げでも「集める」作業は消えません。
② 事業か私用かの判断
自宅兼事務所の家賃の按分割合、車両の使用割合、通信費の扱い。これらは事業主本人が決めるものです。税理士は助言はできますが、実態を知っているのは本人だけです。
③ 質問への回答
「この振込は何ですか」「この経費の内容を教えてください」という確認は必ず来ます。取引件数が多いほど質問も増えます。
④ 資金繰りの管理
税理士は過去の数字をまとめますが、来月の入出金予定を管理するのは経営者の仕事です。丸投げしていても、資金繰り表は自社で持つ必要があります。
資金繰り管理の方法は資金繰りとは?中小企業が倒産しないための管理方法と改善策をご覧ください。
丸投げの落とし穴 ― 数字が経営に届かない
丸投げで最も多い不満は、費用ではなく「1年間、自社の数字が分からないまま過ぎる」という点です。
年に一度、決算のときに初めて数字を見る。そのときには決算期は終わっており、打てる手はほとんど残っていません。「今期は思ったより利益が出たので納税額が大きい」と決算後に知らされる、というのが典型的な失敗です。
防ぐ方法
契約前に、月次試算表が出るかどうかを必ず確認してください。
- 月次で試算表が出るか
- 出るとして、締めてから何日後か
- 数字についての説明・コメントはあるか
顧問料に月次試算表が含まれない契約は珍しくありません。含まれないなら、記帳を別に切り出して月次を確保するという選択肢もあります。
依頼前にやっておくと費用が下がること
1. 事業用の口座とカードを分ける
これが最も効きます。事業用口座が分かれていれば、明細の取り込みだけで大半の取引が拾えます。混ざっていると1件ずつ確認が必要になり、その分が費用に乗ります。
2. 領収書を月ごとに分ける
封筒に月別で入れるだけで十分です。台紙への貼り付けは不要なことが多いので、事前に確認してください。
3. 按分の方針を決めておく
家賃、車両費、通信費をどう按分するか。方針を決めて伝えれば、毎年同じ質問をされずに済みます。
4. 溜め込まない
数年分をまとめて依頼すると、通常単価の1.2〜1.5倍になります。溜めているほど高くなるので、気づいた時点で早く相談したほうが総額は安く済みます。
丸投げ先の税理士を選ぶときの5つの視点
上位記事の多くが「税理士選びで後悔しないために」という切り口を持っています。費用だけで選ぶと、次の点で後悔しやすくなります。
① 月次で数字が出るか
前述のとおり、最も多い不満がここです。契約前に「月次試算表は出ますか。締めてから何日後ですか」と必ず聞いてください。
② レスポンスの速さ
質問への回答が数日かかる事務所は珍しくありません。判断に迷う取引が出たとき、回答待ちで月次が止まります。「質問したら何日で返ってきますか」は具体的に確認する価値があります。
③ 自社の業種に慣れているか
建設業の工事進行基準、飲食店の現金管理、EC事業の決済代行の入金など、業種特有の処理があります。同業の関与先を持っているかを聞いてください。
④ 誰が担当するか
所長税理士と面談して契約したが、実務は担当者が行うというケースは一般的です。実際に日々やり取りする相手が誰かを契約前に確認しておくと、後のギャップが減ります。
⑤ 会計データを自社で持てるか
事務所独自のシステムだけを使っていると、税理士を変更するときにデータの移行で苦労します。クラウド会計を自社名義で契約し、そこに入力してもらう形なら、乗り換えが容易です。
費用が安い事務所で起きやすいこと
- 担当者1人あたりの関与先数が多く、回答が遅い
- 記帳は外部の記帳代行会社に再委託されている
- 月次の説明がなく、決算時にまとめて報告される
安さ自体は問題ではありませんが、その安さがどこから来ているのかは聞いておいてください。
よくある質問
Q. 税理士に頼まず、記帳代行会社だけに丸投げできますか?
できません。確定申告書・法人税申告書の作成と提出は税理士の独占業務です。記帳代行会社が「申告まで対応します」と言う場合、税理士法違反の可能性があります。記帳代行会社に依頼する場合は、申告を担う税理士が別に必要です。
Q. 顧問契約なしで、決算だけ税理士に頼めますか?
「スポット決算」として受けている事務所があります。顧問料がかからないぶん総額は下がりますが、期中の相談ができないため、決算時に判断できない項目が出てくるリスクがあります。
Q. 税理士を変えたいのですが、途中でも可能ですか?
可能です。ただし会計データの引き継ぎが必要なので、現在使っている会計ソフトのデータを自社で持てているかを先に確認してください。事務所独自のシステムしか使っていない場合、移行に手間がかかります。
Q. 記帳代行を含まない顧問契約とは何が違いますか?
記帳を自社で行い、税理士は内容のチェックと申告のみを担う形です。顧問料は下がりますが、記帳できる人が社内に必要です。
Q. 領収書を袋のまま渡しても本当に大丈夫ですか?
丸投げに対応している事務所なら受け付けてもらえます。ただし仕分け工数が費用に乗るため、月別に分けるだけで見積が下がることがあります。台紙への貼り付けまでは不要なことがほとんどなので、どこまでやれば安くなるかを事前に聞いてみてください。
Q. 期の途中から丸投げに切り替えられますか?
可能です。ただし期首からの分をまとめて処理することになるため、初回の費用は高くなります。切り替えるなら期首のタイミングが最も費用効率が良くなります。
Q. 丸投げしていれば税務調査も安心ですか?
税理士が立ち会えるという点で安心材料にはなります。ただし事実関係を説明するのは事業主本人です。何にいくら使ったかを説明できる状態は、丸投げしていても必要です。
まとめ
- 丸投げに含まれるのは記帳・帳簿作成・決算書作成・申告・税務相談
- このうち決算書作成以降は税理士の独占業務。記帳は独占業務ではない
- 費用は個人事業主で年20万〜40万円、法人で年45万〜90万円が目安
- 記帳を別に切り出す分業型は、取引件数が多い会社ほど有利になる
- 判断の分かれ目は「税務相談をどれだけ使うか」
- 丸投げでも証憑を集める・按分を決める・質問に答える・資金繰りを管理するは残る
- 最大の落とし穴は1年間数字が分からないこと。月次試算表の有無を必ず確認する
- 事業用口座を分け、月別に整理し、溜め込まないだけで費用は下がる
- 丸投げと記帳代行の違いは証憑の整理を誰がやるか。ここが費用差の正体
種火では、記帳代行と月次試算表の作成までを担い、決算・申告が必要な場面では提携税理士と連携する形をとっています。どこまでを当社が担い、どこからを税理士が担うかを明示したうえでご提案します。
「今の顧問料が適正か分からない」「1年間数字が見えないのが不安」という段階からご相談いただけます。現在の契約内容と取引件数を伺えば、分業型にした場合の費用感をお伝えできます。今の税理士との関係を切る前提のご相談である必要はありません。記帳だけを切り出して月次を確保する、という進め方も可能です。
あわせて読みたい:記帳代行サービスとは?料金相場・選び方・経理代行との違い/経理アウトソーシングとは?メリット・費用相場・失敗しない選び方
