資金繰りが厳しくなったとき、多くの経営者がまず考えるのが融資です。
ただ、借りれば解決するとは限りません。 構造的に資金が減り続けているなら、借りても数か月後に同じ状況に戻ります。むしろ返済が加わるぶん、悪化することもあります。
この記事では、借りる前に確認すべきこと、どこから借りるべきか、そして借りずに済ませる手を整理します。判断の順番を間違えなければ、選べる立場で調達できます。
借りる前に確認する3つのこと
1. なぜ資金が足りないのか
原因によって、取るべき手はまったく違います。
売上が伸びている場合:仕入と人件費が先に増え、入金は後から来ます。これは前向きな資金需要で、融資も通りやすくなります。
入金サイトが延びた場合:取引先の支払い条件が変わると、立替期間が延びます。一時的な資金需要として説明できます。
季節的な要因の場合:毎年同じ時期に来るなら、予測できる需要です。当座貸越など、使った分だけ借りる形が合理的です。
赤字が続いている場合:これがもっとも厳しいケースです。融資で埋めても、赤字が続く限り資金は減り続けます。必要なのは資金ではなく収支構造の見直しです。
まず自社がどれに当てはまるかを見極めてください。
2. いくら足りないのか
「なんとなく苦しい」では借入額が決まりません。資金繰り表を作って、月ごとの入出金を並べてください。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 前月繰越 | 前月末の現金・預金残高 |
| 入金 | 売掛金の回収、現金売上、借入 |
| 出金 | 仕入、人件費、家賃、返済、税金 |
| 当月末残高 | 前月繰越+入金-出金 |
これを6か月先まで引くと、いつ・いくら不足するかが見えます。
3. 返せるのか
もっとも重要な確認です。借入額が決まったら、月々の返済額を計算してください。
1,000万円を5年(60回)で借りると、元金だけで月約17万円です。粗利率30%の事業なら、返済分を稼ぐだけで月約56万円の売上が必要になります。
この数字を今の事業が生み出せるかどうか。ここを確認せずに借りると、返済が始まってから苦しくなります。
元金の返済は経費になりません。 利益から支払われるため、「利益が出ているのに手元にお金が残らない」という状態はここから生まれます。
資金繰りに使える融資の種類
日本政策金融公庫
政府系金融機関です。運転資金の融資限度額は4,800万円。
創業期や、民間金融機関との取引が浅い時期に使いやすい調達先です。無担保・無保証の制度があり、金利も民間より低めに設定されています。
申し込みから着金まで1か月前後。まず検討すべき選択肢です。
融資以外も含めた資金調達の方法の全体像は、資金調達とはで整理しています。
制度融資
自治体・信用保証協会・金融機関の3者による仕組みです。自治体が利子や信用保証料の一部を補助します。
着金まで2〜3か月かかりますが、実質的な負担は軽くなることがあります。条件は自治体ごとに違うため、事業所を置く自治体の制度を確認してください。
信用保証協会の保証付き融資
信用保証協会が保証人となることで、民間金融機関から借りやすくなります。
保証料が別途かかります。保証料率は0.45%〜2.2%程度で、財務状況によって決まります。保証には限度枠があり、無担保では8,000万円まで。この枠を使い切っているかどうかが、次の調達の可否を左右します。
現状の枠の残りは、取引のある金融機関に聞けば教えてもらえます。
当座貸越
あらかじめ設定した限度額の範囲で、必要なときに引き出せる仕組みです。
資金繰りにはもっとも適した形です。使った分だけ利息がかかるため、季節的な需要や一時的な不足に対応しやすくなります。ただし審査は厳しく、一定の財務内容が求められます。資金繰りの考え方の全体像は、資金繰りの基本と管理方法にまとめています。
手形割引
受取手形を期日前に現金化します。割引料は金融機関で年1〜3%程度と、ファクタリングより負担は軽くなります。手形取引が残っている業種では選択肢になります。
ファクタリング
売掛金を売却して現金化します。融資ではないため審査基準が異なり、赤字でも利用できる場合があります。
ただし手数料は2社間で8〜18%、3社間で2〜9%程度。売掛金の入金までが1か月なら、年利換算で数十%から100%を超える水準になります。
一時的なつなぎとしては機能しますが、常用すると資金繰りは悪化しやすくなります。 融資で調達できる状況なら、まず融資を検討してください。
審査で見られる指標
債務償還年数
もっとも重視されます。今ある借入を、今の利益で何年かけて返せるかを示します。
債務償還年数 = 有利子負債 ÷(税引後利益 + 減価償却費)
借入3,000万円、税引後利益300万円、減価償却費200万円なら、3,000 ÷ 500 = 6年です。
一般に10年以内なら健全、15年を超えると新規融資は難しくなります。
資金使途の妥当性
「資金繰りが苦しいので1,000万円」では通りません。何にいくら必要かを説明する必要があります。
とくに評価されやすいのは売上増加にともなう前向きな資金需要です。逆に「赤字の補填」は厳しく見られます。同じ金額でも、示し方で結果が変わります。
返済原資
何から返すのかを示します。運転資金であれば、営業活動で生まれるキャッシュフローが返済原資です。
利益と減価償却費の合計が、年間の返済額を上回っているか。ここが逆転していれば、返済のたびに資金が減る構造です。
財務指標
自己資本比率20%以上、営業利益の黒字、現預金が月商の1.5か月分以上。これらが目安になります。
税金・社会保険料の納付状況
滞納があると、その時点で融資は止まります。 分割納付の合意がある場合でも、履行実績が求められます。
借りずに済ませる手を先に
融資を受ける前に、社内でできることがあります。これらを実行してから借入額を決めると、借りる金額を抑えられます。
請求書を早く出す
意外に多いのが、請求書の発行が遅れているケースです。月末締めの請求書を翌月10日に出すのと翌月1日に出すのとでは、入金が1か月ずれることがあります。
入金サイトの短縮を相談する
すべての取引先に交渉する必要はありません。金額の大きい数社だけでも効果があります。
売掛金の回収を確認する
期日を過ぎた売掛金はないか。放置するほど回収は難しくなります。月次で一覧を確認する習慣があるだけで、貸倒れは減ります。
在庫を圧縮する
滞留在庫を処分するだけで資金が生まれます。決算書上は損失が出ますが、現金は増えます。
支払サイトを見直す
仕入先との交渉で支払いを延ばせれば、必要な運転資金は減ります。ただし関係を損なわない範囲で。
固定費を点検する
使っていないソフトウェアの契約、更新され続けている保険、必要以上の通信プラン。年に一度、口座とカードの明細を1年分並べて、毎月引き落とされているものを書き出してみてください。
資金需要のタイプ別に適した融資
同じ「資金繰りのための融資」でも、需要の性質によって適した形が違います。ここを合わせると、審査も通りやすくなり、返済も無理がなくなります。
常に必要な資金(経常運転資金)
事業を続ける限り、売掛金と在庫に資金が寝ています。「売上債権+棚卸資産-仕入債務」で計算される金額です。
これは事業が続く限り必要なので、長期の借入で賄うのが本来の形です。短期借入を毎年借り換える形にすると、更新のたびに審査が入り、断られた瞬間に資金繰りが詰まります。
売上増加にともなう資金(増加運転資金)
月商が500万円から700万円に増えれば、必要な運転資金も比例して増えます。この増加分は、売上が伸びる前に調達しておく必要があります。受注が決まってから動くのでは間に合いません。
金融機関にとっても前向きな資金需要として評価されます。「受注が◯%増える見込みで、それにともなう仕入増が◯万円」と説明できれば通りやすくなります。
季節的な資金(季節運転資金)
年末商戦前の仕入、農閑期の運転資金、賞与、納税。毎年同じ時期に来ることが分かっている需要です。
予測できるので、当座貸越や短期借入で対応するのが合理的です。使う期間だけ借りれば利息を抑えられます。
赤字を埋める資金
もっとも審査が厳しくなります。改善計画とセットでなければ話が進みません。
そして繰り返しになりますが、構造的な赤字であれば調達しても数か月後に同じ状況になります。この場合に必要なのは資金ではなく事業の見直しです。
分けて説明できると結果が変わる
自社の資金需要がどれにあたるかを判別できると、金融機関への説明が変わります。
「資金繰りが厳しいので貸してください」ではなく「受注増にともなう増加運転資金として◯万円必要です」と言えれば、同じ金額でも受け止め方がまったく違います。
月次で見るべき4つの数字
融資を検討する前に、自社の状態を数字で把握しておく必要があります。特別な分析は要りません。次の4つを毎月見るだけです。
現預金残高:前月と比べて増えたか減ったか。減っているなら理由は何か。
売掛金の残高と回収状況:売上が立っているのに入金がない取引先はないか。回収サイトが延びていないか。
在庫の金額:前月より増えているなら、その分だけ資金が寝ています。売れ行きに対して仕入が過剰になっていないか。
借入残高と月々の返済額:利益と減価償却費の合計が年間返済額を上回っているか。逆転していれば、返済のたびに資金が減る構造です。
この4つを並べるだけで、資金がどこで詰まっているかが見えます。見る習慣があるかどうかの差です。
返済が厳しくなったら
すでに借入があり、返済が苦しい場合の話です。
延滞する前に金融機関へ相談してください。 条件変更(リスケジュール)に応じてもらえる場合があります。返済額の減額や期間の延長によって、月々の負担を軽くできます。
延滞してから相談するのと、その前に相談するのとでは、対応がまったく違います。延滞は信用情報に記録され、以後の調達が困難になります。
相談の際は、なぜ苦しくなったのか、今後どう改善するのかを数字で示せるようにしてください。資金繰り表と改善計画があれば、話が前に進みます。
金融機関との付き合い方
資金繰りの融資は繰り返し必要になります。だからこそ、単発の借入より継続的な関係が効いてきます。
決算書は自分から持っていく。 数字がよくない年ほど避けたくなりますが、逆です。悪い内容を自分から説明し、原因と改善策を伝えている会社と、提出を渋る会社では、いざというときの対応が変わります。
業績の変化は早めに伝える。 大口の受注、主要取引先の喪失、設備の故障。金融機関がもっとも嫌うのは突然の悪い知らせです。
複数の金融機関と取引する。 1行だけに依存すると、断られた時点で選択肢がなくなります。公庫は民間と競合しないため、併用しやすい相手です。
資金繰りは融資の前に見る
融資は対症療法です。構造的に資金が減り続けているなら、借りても数か月後に同じ状況になります。
多くの中小企業で、月次の数字が出るのは翌月末以降です。これでは2か月前の状態を見ていることになり、手を打つタイミングを逃します。
翌月10日までに数字が出る体制を作れれば、資金がいつ厳しくなるかを事前に読めます。3か月前に分かっていれば、融資の申し込みも取引先への相談も間に合います。尽きてから動くと、高い手数料の調達に頼ることになり、状況はさらに悪化します。
合同会社種火は、福岡県大川市と熊本市を拠点に、経理代行と資金繰り管理をお引き受けしています。月次の数字を早くお出しし、資金がいつ厳しくなるかを事前にお伝えするところまでを標準にしています。「そもそも借りるべきかどうか」という段階のご相談も承ります。
資金繰りや財務の数字を毎月一緒に見てほしい場合は、種火の社外CFOサービスで伴走しています。
よくある質問
Q. 赤字でも融資を受けられますか。
可能な場合があります。赤字の理由が一時的なもの(設備投資、新規事業の先行投資など)で、改善の道筋を示せれば評価されます。構造的な赤字が続いている場合は厳しくなります。
Q. 複数の金融機関に同時に申し込んでもよいですか。
短期間に複数へ申し込むと、資金繰りに窮していると見られることがあります。メインバンクに先に相談するのが順序です。
Q. どれくらい前に動けばよいですか。
公庫で1か月前後、制度融資で2〜3か月かかります。資金が尽きる3か月前が現実的な目安です。
Q. 借りたお金を別の用途に使ってもよいですか。
いけません。融資契約では資金使途が定められており、目的外の使用は契約違反です。発覚すると一括返済を求められることがあります。
Q. 個人事業主でも借りられますか。
借りられます。公庫も制度融資も個人・法人の両方が対象です。ただし事業用と生活用の口座が分かれていないと事業の実態が読み取れないため、申し込み前に必ず分けてください。
Q. 決算書の内容が悪いのですが、改善してから申し込むべきですか。
改善の見込みがあるなら、その計画を示して申し込むほうが早いことがあります。ただし債務超過や大幅な赤字の場合は、まず事業の立て直しが先になります。
判断の目安は債務償還年数です。15年を超えている状態で新規融資を申し込んでも、通る可能性は高くありません。まず返済を進めるか、条件変更を検討してください。
Q. 補助金で資金繰りを改善できますか。
多くの補助金は設備投資や販路開拓が対象で、人件費や仕入といった経常的な運転資金には使えません。
また補助金は原則として後払いです。先に支出し、実績報告の後に入金されます。採択されても、それまでのつなぎ資金は別途必要になります。補助金を前提に資金繰りを組むと、入金前に資金が尽きることがあります。
Q. 申し込みには何を用意すればよいですか。
決算書(法人は3期分、個人事業主は確定申告書3年分)、直近の試算表、借入金の返済予定表(全金融機関分)、納税証明書、資金使途の内訳が分かる資料です。
このうち資金繰り表は多くの中小企業で作られていませんが、運転資金の申し込みではこれがあるかどうかで説明の説得力がまったく違います。
まとめ
- 借りる前に「なぜ足りないか」「いくら足りないか」「返せるか」を確認する
- 赤字が原因なら、融資では解決しない。収支構造の見直しが先
- 調達先は公庫から検討。当座貸越は資金繰りにもっとも適した形
- ファクタリングは年利換算で非常に高い。常用しない
- 審査では債務償還年数(10年以内が目安)と資金使途の妥当性を見られる
- 請求書を早く出す、在庫を圧縮するなど、借りずに済ませる手を先に
- 返済が厳しくなったら、延滞する前に金融機関へ相談する
- 資金繰り表を6か月先まで引き、尽きる3か月前に動く
資金が尽きてから動くと条件を選べません。月次で数字を見ていれば、選べる立場で借りられます。 その差は金利や借入額よりずっと大きなものになります。
