「税理士に頼めば、記帳もやってくれるのでは」
そう思って問い合わせたら「記帳はご自身でお願いします」と言われた。あるいは「記帳もやりますが、その分は別料金です」と提示された。どちらも珍しい話ではありません。
税理士は税務の専門家であって、記帳の代行業者ではない。ここを理解しておくと、依頼先の選び方も、費用の妥当性の判断も変わります。
この記事では、税理士に記帳をどこまで頼めるのか、なぜ敬遠する事務所があるのか、そして無資格の業者に頼むとどこから違法になるのかを整理します。
税理士は記帳をやってくれるのか
結論から言えば、多くの税理士事務所は記帳代行に対応しています。ただし、次の3つのパターンに分かれます。
パターン1:顧問料に記帳が含まれている
月額顧問料の中に記帳代行が含まれる契約です。証憑を渡せば仕訳まで済むため、経営者の手間は最も小さくなります。そのぶん顧問料は高めに設定されます。
パターン2:顧問料とは別料金
顧問料は税務相談と申告に対するもので、記帳は別途「記帳代行料」として請求される契約です。仕訳数に応じた従量制が一般的です。
パターン3:記帳は自社でやってもらう方針
「会計ソフトに入力までしていただき、当事務所はチェックと申告を担当します」という方針の事務所です。顧問料は最も安くなりますが、記帳できる人が社内に必要です。
問い合わせの段階で「記帳は含まれますか。含まれる場合、仕訳数の上限はありますか」と聞けば、どのパターンかがすぐ分かります。
なぜ記帳を敬遠する税理士事務所があるのか
「税理士なのに記帳をやらないのはなぜか」と疑問に思うかもしれません。理由は3つあります。
① 記帳は税理士の独占業務ではない
税理士法が定める独占業務は、税務代理・税務書類の作成・税務相談の3つです。単純な記帳(会計帳簿への記録)は含まれません。
税理士でなければできない業務(税務代理・税務書類の作成・税務相談)は、税理士法の第2条と第52条で定められています(e-Gov法令検索「税理士法」)。
つまり記帳は、資格がなくてもできる仕事です。税理士の専門性が最も活きるのは税務判断のほうであり、記帳作業に人員を割くことは事務所経営として効率的ではありません。
② 単価が合わない
記帳は工数がかかる割に単価が低い業務です。税理士や有資格スタッフの時間を充てると採算が合わないため、外部の記帳代行会社へ再委託している事務所も少なくありません。
③ 証憑の整理から始まると工数が読めない
領収書が袋のまま届く、事業用と個人用の口座が混ざっている、といった状態だと、仕訳の前に仕分け作業が発生します。この工数は事前に見積もれないため、あらかじめ受けない方針にしている事務所があります。
逆に言えば、証憑を整理して渡せば受けてもらえる、あるいは費用が下がることが多いということです。
記帳を誰が担うかの3パターンと費用
記帳を担えるのは、自社・記帳代行会社・税理士事務所の3者です。
| 自社 | 記帳代行会社 | 税理士事務所 | |
|---|---|---|---|
| 費用(月・目安) | 0円(人件費のみ) | 1万〜3万円 | 2万〜5万円 |
| 税務相談 | ✕ | ✕ | ○ |
| 申告 | ✕ | ✕ | ○ |
| 月次試算表 | 自分で作成 | 出ることが多い | 契約による |
| 証憑の整理 | 自社 | 自社が整理して渡すことが多い | 袋のままでも受ける事務所あり |
| 窓口 | ― | 申告用に税理士が別途必要 | 1つで済む |
よくある組み合わせ
A. 税理士に全部:窓口が1つで手間は最少。費用は最も高い
B. 記帳代行会社+税理士:費用を抑えやすい。窓口は2つ
C. 自社記帳+税理士:最も安いが、記帳できる人が社内に必要
取引件数が多い会社ほど、Bの分業型が有利になります。記帳の単価差が総額に効いてくるためです。
丸投げと分業の費用比較は税理士に記帳代行を丸投げする前に|費用の内訳と分業という選択肢で詳しく解説しています。
【重要】税理士法違反になる境界線
記帳を外部に頼むとき、必ず押さえておくべき論点です。実際、「記帳代行 税理士法違反」という検索が月に300件以上あります。
記帳代行そのものは違法ではない
繰り返しになりますが、単純な記帳は税理士の独占業務ではありません。無資格の記帳代行会社が仕訳入力を行い、報酬を受け取ることは合法です。
違法になるのはここから
税理士法により、次を無資格者が報酬を得て行うと違反になります。
| 行為 | 具体例 |
|---|---|
| 税務代理 | 税務署への申告の代理、税務調査の立ち会い、更正・決定への不服申立て |
| 税務書類の作成 | 確定申告書、法人税申告書、消費税申告書、青色申告決算書などの作成 |
| 税務相談 | 「この支出は経費になるか」「この処理で節税できるか」といった具体的な税額計算に関わる相談への回答 |
3つ目の「税務相談」が最も境界が曖昧に見えますが、判断基準は「具体的な税額の計算に関わる助言かどうか」です。一般的な制度の説明は問題ありませんが、「御社のこのケースでは経費にできます」という個別判断は税務相談にあたります。
経営者側が確認すべきこと
見積や提案を受けたとき、次の質問をしてください。
「決算書の作成と申告は、どなたが行いますか」
正しい答えは「提携する税理士が行います」または「別途、税理士事務所にご依頼ください」です。
「当社で申告まで対応します」と答える無資格の業者は避けてください。 税理士法違反にあたる可能性があり、万一の際に責任を負ってもらえません。税務調査で問題が生じても、その業者は立ち会えません。
依頼する側は罰せられるのか
税理士法の罰則は、原則として無資格で業務を行った側に科されます。ただし、作成された申告書の内容についての責任は納税者本人が負います。「業者に任せていたから知らなかった」は通りません。
「記帳代行 税理士法違反」で検索される背景
この論点が繰り返し検索されるのには、実務上の理由があります。
経営者側が不安になる場面
- 記帳代行会社から「決算・申告まで一括対応」と提案された
- 顧問税理士から「そこは違法の可能性がある」と指摘された
- 安すぎる見積を見て、何か問題があるのではと感じた
いずれも「安く済ませたいが、法令違反は避けたい」という真っ当な迷いです。
実際に問題になりやすいケース
ケース1:記帳代行会社が申告書まで作成する
明確に税理士法違反です。記帳代行会社が「提携税理士の名義で提出します」と言う場合も、実質的に無資格者が作成しているなら問題があります。税理士が内容を確認し、責任を持って作成しているかが分かれ目です。
ケース2:無資格の担当者が節税の助言をする
「その支出は経費で落とせますよ」「この時期に買えば節税になります」といった個別の助言は税務相談にあたります。一般的な制度説明との線引きは、その会社の具体的な状況に踏み込んでいるかどうかです。
ケース3:会計事務所を名乗る無資格事業者
「◯◯会計事務所」という名称でも、税理士が在籍しているとは限りません。税理士事務所であれば、必ず所属税理士の氏名と登録番号が確認できます。日本税理士会連合会のサイトで登録の有無を照会することもできます。
確認の仕方
契約前に、次の1問だけで判別できます。
「御社に税理士は在籍していますか。いない場合、申告はどちらが行いますか」
在籍していないこと自体は問題ではありません。問題は、いないのに申告まで引き受けようとすることです。「記帳までが当社、申告は提携税理士」と明確に答える会社なら、法令上の懸念はありません。
税理士に記帳を依頼するときの実務
渡すもの
- 通帳のコピー(またはネットバンキングの明細データ)
- クレジットカードの明細
- 領収書・レシート
- 売上の請求書控え
- 仕入・外注の請求書
- 給与台帳
- 借入金の返済予定表
渡し方と頻度
毎月まとめて渡す形が一般的です。年に一度まとめて渡す運用も可能ですが、月次で数字が見えなくなるため、経営判断には使えなくなります。
近年はクラウド会計を使い、銀行・カードの明細を自動連携させたうえで、領収書だけを写真で送る運用が増えています。この形にすると、渡す手間そのものがかなり減ります。
返ってくるもの
- 月次試算表(契約に含まれる場合)
- 仕訳の確認事項(「この振込の内容を教えてください」等)
質問への回答が滞ると、月次の締めが止まります。 依頼側の宿題として、質問には数日以内に答える体制を持ってください。
顧問料に記帳が含まれているかを見分ける方法
自社の契約がどうなっているか分からない、という相談は少なくありません。次の3点で判別できます。
① 契約書の業務範囲を確認する
「記帳代行」「会計帳簿の作成」といった記載があれば含まれています。「税務顧問」「決算・申告業務」しか書かれていない場合、記帳は含まれていない可能性が高くなります。
② 請求書の内訳を見る
顧問料と別に「記帳代行料」「記帳料」の行があれば別料金です。一式でまとまっている場合は、事務所に内訳を確認してください。
③ 実際に誰が入力しているかを思い出す
自社の担当者が会計ソフトに入力しているなら、記帳は自社が担っています。この場合、顧問料は「チェックと申告」に対するものです。
見直しの視点
もし顧問料に記帳が含まれていて、かつ月次試算表が出ていないなら、支払っている割に得ているものが少ない状態です。次のいずれかを検討する価値があります。
- 顧問税理士に月次試算表の提出を依頼する(追加費用がかかる場合あり)
- 記帳を切り出して記帳代行会社に移し、顧問料を下げてもらう
- 顧問契約はそのままに、記帳の精度と速度だけ改善する
まず「今いくら払って、何を受け取っているか」を書き出すところから始めてください。これだけで判断材料が揃います。
費用を下げる4つの準備
税理士事務所に記帳を頼む場合でも、次の準備で見積は変わります。
1. 事業用の口座とカードを分ける
最も効果があります。事業用口座が分かれていれば、明細の取り込みだけで大半の取引が拾えます。混ざっていると1件ずつ「事業か私用か」の確認が必要になり、その工数が費用に乗ります。
2. 領収書を月ごとに分ける
封筒に月別で入れるだけで十分です。台紙への貼り付けまでは不要な事務所がほとんどなので、事前に確認してください。
3. 按分の方針を先に決める
自宅兼事務所の家賃、車両費、通信費をどの割合で按分するか。これは事業主本人が決めるものです。方針を決めて伝えれば、毎年同じ質問をされずに済みます。
4. 溜め込まない
数か月分をまとめて依頼すると、通常単価の1.2〜1.5倍になることがあります。溜めているほど高くなるため、早く相談したほうが総額は安く済みます。
税理士を選ぶときに記帳まわりで確認する5点
- 記帳は顧問料に含まれるか、別料金か
- 仕訳数の上限はあるか(超過時の単価も確認)
- 月次試算表は出るか、締めてから何日後か
- 記帳は事務所内で行うか、外部に再委託するか
- 会計ソフトは自社名義で契約できるか
4つ目は意外に重要です。再委託されている場合、質問の往復に時間がかかることがあります。悪いことではありませんが、レスポンスの速度に影響します。
5つ目は、税理士を変更するときの自由度を左右します。事務所独自のシステムだけで運用していると、乗り換え時にデータの移行で苦労します。
依頼先の選び方全般は経理代行の選び方|失敗しない7つのチェックポイントもご覧ください。
記帳を外に出すタイミング
「いつ相談すべきか」という問いには、規模ではなく状況で答えられます。
相談すべきサイン
- 領収書が2か月以上溜まっている
- 会計ソフトを契約したが、入力が止まっている
- 決算のたびに慌てて1年分をまとめている
- 月の途中で自社の損益が分からない
- 経理を担当している人が退職を考えている気配がある
- 融資の相談で「直近の試算表を出してください」と言われて出せなかった
最後の項目は、実際に困る場面です。金融機関は決算書だけでなく期中の試算表を求めます。出せないこと自体が評価に影響するため、資金調達を考えているなら記帳の体制は先に整えておく必要があります。
逆に、急がなくてよいケース
- 取引が月20件程度で、会計ソフトの自動仕訳がほぼ機能している
- 事業用口座が分かれていて、現金取引がほとんどない
- 記帳を担当できる人が社内に2名以上いる
この状態なら、当面は自社運用で問題ありません。
顧問税理士に依頼する場合の範囲と費用は、年末調整を税理士に依頼するとどこまで?費用相場と選び方で整理しています。
よくある質問
Q. 記帳だけを税理士に頼むことはできますか?
顧問契約なしで記帳のみを受ける事務所もありますが、多くは顧問契約とセットです。記帳だけを切り出したい場合は、記帳代行会社のほうが受けてもらいやすく、費用も抑えられます。
Q. 税理士に頼めば記帳のミスはなくなりますか?
減りますが、ゼロにはなりません。税理士は渡された資料からしか判断できないためです。領収書の内容が不明なもの、私用と混ざった支出は、確認しないと正しく処理できません。精度は資料の質に依存します。
Q. 記帳指導とは何ですか?
自社で記帳できるよう、税理士が指導する形態です。商工会議所などでも行われています。長期的に内製したい会社に向いていますが、当面の手間は減りません。
Q. 会計ソフトを使っていれば記帳代行は不要ですか?
取引が少なく例外もないなら、自動仕訳でほぼ回ります。判断の目安は「毎月手が止まる取引が何件あるか」です。5件以上あるなら外部の判断を借りる価値があります。
Q. 記帳代行会社に頼むと、税務調査で不利になりませんか?
なりません。帳簿が正しく作られていれば、誰が入力したかは問題になりません。ただし調査への立ち会いは税理士でなければできないため、申告を担う税理士との関係は必要です。
Q. 税理士を変えると記帳のデータはどうなりますか?
会計ソフトが自社名義であれば、そのまま引き継げます。事務所名義の場合は、データのエクスポートを依頼してください。総勘定元帳や仕訳帳はPDFではなく、CSVなど再利用できる形式で受け取っておくと、次の事務所での作業がスムーズです。
Q. 顧問税理士がいるのに記帳代行会社も使うのは二重ではありませんか?
役割が違うため二重にはなりません。記帳代行会社が日々の記帳を担い、税理士が決算と申告、税務相談を担う形です。ただし税理士側の顧問料に記帳が含まれている場合は重複するので、契約内容の見直しが必要です。
まとめ
- 税理士事務所の多くは記帳に対応するが、顧問料に含む/別料金/自社でやってもらうの3パターンがある
- 記帳は税理士の独占業務ではない。だから記帳代行会社が存在でき、無資格でも合法に受託できる
- 税理士事務所が記帳を敬遠するのは、単価が合わないことと、証憑の整理から始まると工数が読めないため
- 違法になるのは税務代理・税務書類の作成・税務相談。ここを無資格者が行うと税理士法違反
- 「申告まで対応します」と言う無資格の業者は避ける。申告内容の責任は納税者本人が負う
- 取引件数が多いほど、記帳代行会社+税理士の分業型が費用面で有利になりやすい
- 事業用口座を分け、月別に整理し、按分方針を決め、溜め込まない。この4つだけで見積は変わる
記帳をどこに頼むかは、費用だけでなく「毎月の数字が見えるか」で判断してください。年に一度しか数字を見ない状態では、決算のときには打てる手がほとんど残っていません。
種火では、記帳代行と月次試算表の作成までを担い、決算・申告が必要な場面では提携税理士と連携しています。どこまでを当社が担い、どこからを税理士が担うかを明示したうえでご提案します。
「今の顧問料に記帳が含まれているのか分からない」という段階からご相談いただけます。契約内容と取引件数を伺えば、分業にした場合の費用感をお伝えできます。顧問税理士との関係を切る前提である必要はありません。記帳だけを移して月次を確保する、という進め方も可能です。
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