「経理も労務も総務も、まとめて全部お願いしたい」
中小企業の経営者からよく聞く要望です。結論から言えば、作業の大半は任せられます。ただし完全な丸投げにはなりません。
この記事では、実際にどこまで任せられるのか、何が社内に残るのかを、日々この業務を引き受けている立場から整理します。できないことを先に知っておくほうが、結果的に失敗を避けられます。
任せられる範囲
丸投げの対象になるのは、主に次の業務です。
| 領域 | 任せられる内容 | 月額の目安 |
|---|---|---|
| 記帳 | 仕訳入力、月次試算表の作成 | 1万〜5万円 |
| 請求・入金 | 請求書発行、入金消込、督促 | 2万〜8万円 |
| 支払 | 支払データ作成、振込処理の準備 | 2万〜6万円 |
| 給与計算 | 給与計算、明細発行、勤怠集計 | 1万〜5万円 |
| 労務手続き | 社会保険、雇用保険の手続き | 2万〜10万円 |
| 経費精算 | 領収書チェック、精算処理 | 1万〜4万円 |
従業員10名以下で記帳・請求・給与を任せる場合、月10万〜15万円が一つの目安です。
社内に必ず残る4つの仕事
ここが「完全な丸投げにはならない」理由です。始めてから戸惑わないよう、先にお伝えします。
1. 証憑を集めて渡す
領収書、請求書、通帳の記録。これらを集めて渡す作業は社内の仕事です。
丸投げして「かえって面倒になった」という失敗の多くは、ここが設計されていないことが原因です。スマホで撮影してクラウドに上げるだけの仕組みにできれば手間はわずかですが、紙を仕分けて月末に郵送する運用だと毎月まとまった時間を取られます。
2. 判断が必要な処理を決める
この支出は交際費か会議費か。この設備は資産計上か一括経費か。この売掛金は回収不能として処理するか。
こうした判断は代行側では決められません。税務上の判断は、後から責任を問われるのは会社だからです。多くの場合、代行会社から「これはどちらで処理しますか」と質問が来ます。
3. 支払いと入金の実行
振込データの作成までは任せられますが、実際の振込実行は会社の権限で行います。銀行の権限を外部に渡すべきではないためです。
4. 数字を見て意思決定する
月次試算表が届いても、それを見て判断するのは経営者の仕事です。ここは代行できません。
むしろ丸投げの本来の目的は、入力作業から解放されて数字を見る時間を作ることにあります。数字を見なくてよくなることではありません。
丸投げが失敗する原因
証憑の受け渡しを決めていない
最も多い失敗です。前述のとおり、ここを設計しないと手間は減りません。
契約前に「領収書をどう渡すか」「請求書はどこに届くか」「いつまでに渡すか」を決めてください。
社内の担当者が誰もいなくなる
全部任せた結果、社内に数字を分かる人が一人もいなくなるケースがあります。
代行会社からの質問に答えられない、金融機関から決算内容を聞かれても説明できない、という状態は危険です。窓口になる人を一人は決めておいてください。
安さだけで選ぶ
月3万円と月10万円の見積があれば安いほうを選びたくなりますが、範囲が違うことがほとんどです。
「仕訳の入力だけで、月次試算表は自分で作る必要があった」「質問への回答が2週間後だった」というケースは珍しくありません。
数字が手元から離れる
作業が減った結果、月次試算表は届くが読んでいない、という状態になると、経営判断のための情報が失われます。
月次の数字を一緒に見て説明してくれる相手を選ぶと、この失敗は避けられます。
依頼する前に決めておくこと
業務の棚卸し
誰が、何を、月にどれくらいやっているかを書き出してください。粒度は「記帳」ではなく「領収書を月◯枚受け取り、科目を判断して会計ソフトに入力している」くらいまで細かく。
ここが曖昧なまま見積を取ると、範囲がずれた見積が返ってきます。
何を解決したいのか
「経理に時間を取られている」のか、「担当者が辞めたときに業務が止まるのが怖い」のか、「数字が遅くて経営判断に使えない」のか。
問題によって、選ぶべき会社も任せる範囲も変わります。作業を減らしたいだけなら安い会社で十分ですし、数字を判断に使いたいなら説明できる会社を選ぶべきです。
事業用の口座とカードを分ける
事業用とプライベートが混ざった口座では、何が事業の取引か判別できません。丸投げの前提条件と考えてください。
見積で確認すべきこと
- 業務範囲:「記帳代行」と書かれていても、領収書の仕分けから含むのか、データ化された仕訳を入力するだけなのか
- 件数の上限:月額固定の場合、「仕訳月100件まで」といった上限と超過単価
- 納期:月次試算表がいつ出るか。翌月10日と翌月末では価値がまったく違う
- 担当者:有資格者か、固定されるか
- 連絡手段:チャットで随時か、月1回の定例だけか
- 解約条件:最低契約期間、解約予告期間
とくに納期は見落とされがちです。数字が翌月末に出るなら、判断に使うには遅すぎます。
種火のバックオフィス支援について
合同会社種火は、福岡県大川市と熊本市を拠点に、中小企業のバックオフィス業務をお引き受けしています。
記帳・請求・給与計算といった定型業務に加えて、月次の数字を一緒に見て、資金繰りの見通しまでお伝えるところまでを標準にしています。作業を引き受けるだけでなく、経営判断に使える形で数字を返すことを重視しているためです。
「どこまで任せられるのか」「今の体制のままでよいのか」といった段階からご相談いただけます。まずは業務の棚卸しから、という形でも構いません。
AIで実際に楽になる業務と、人が担い続ける業務の切り分けは、バックオフィスのAI活用で整理しています。
代行・派遣・コンサルなど、支援の形ごとの違いはバックオフィス支援とはで整理しています。
業務の見直しやツールの導入を一緒に進めたい場合は、種火のDX・業務効率化の支援で伴走しています。
よくある質問
Q. 従業員が1人でも依頼できますか。
できます。むしろ規模が小さいほど、経理担当を雇う余裕がないため効果は大きくなります。
Q. 税理士に頼むのと何が違いますか。
税理士の業務は税務申告と税務相談が中心で、記帳はその前段階として引き受けている形が多くなります。バックオフィス代行は、記帳に加えて請求・給与・労務など日常業務まで含む点が違います。併用する会社も多くあります。
Q. 契約してからどれくらいで稼働しますか。
記帳代行のみであれば2週間から1か月程度。給与計算を含む場合は、給与体系や勤怠の仕組みを確認する必要があるため1〜2か月見ておいてください。
Q. 労務手続きも丸投げできますか。
社会保険・雇用保険の手続きは社会保険労務士の独占業務が含まれます。代行会社に社労士が在籍しているか、提携しているかを必ず確認してください。無資格者が手続き代行を行うことは法律上できません。
社会保険・労働保険の書類の作成や提出の代行を仕事として行えるのは、社会保険労務士に限られます(e-Gov法令検索「社会保険労務士法」 第2条・第27条)。
Q. 途中で範囲を変えられますか。
多くの会社で可能です。ただし月額固定型の場合、範囲変更にともなって金額が変わります。事業の成長に合わせて広げたい場合は、その柔軟性があるかを契約前に確認してください。
まとめ
- 記帳・請求・給与・労務・経費精算といった作業の大半は任せられる
- ただし、証憑を集める/判断する/支払いを実行する/数字を見て決める、の4つは社内に残る
- 失敗の原因は、証憑の受け渡し設計、窓口不在、安さだけの選定、数字を見なくなること
- 依頼前に業務の棚卸しと、事業用口座の分離を済ませておく
- 見積は金額でなく、範囲・件数上限・納期・担当者・解約条件で比べる
「全部お願いしたい」の本当の目的は、作業から解放されて経営に時間を使うことのはずです。数字を見る時間まで手放してしまうと、丸投げは意味を失います。その線引きだけ、最初に決めておいてください。
