創業融資を考えると、たいてい「税理士に頼んだほうがいいのだろうか」という疑問にぶつかります。

結論から言えば、税理士だから融資に強いとは限りません。 税務申告と資金調達支援は、別の専門性だからです。年間で何十件も融資支援を扱う事務所もあれば、まったく扱わない事務所もあります。

この記事では、税理士に依頼して何が得られるのか、費用はいくらか、どう選べばよいのか、そしてそもそも頼まなくてよい場合を整理します。

税理士に依頼して得られること

事業計画書と数値計画の作成

創業融資でもっとも重要な書類です。税理士は日常的に決算書や試算表を扱っているため、金融機関が読みやすい形式を知っています。

売上計画を単価と客数に分解し、経費を漏れなく計上し、資金繰り表とセットで組む。この一連の作業に慣れているかどうかで、書類の説得力は変わります。

金融機関の選定

公庫か、制度融資か、両方か。事業規模と資金使途によって適した調達先は変わります。

公庫の創業向け融資の条件は、日本政策金融公庫「新規開業・スタートアップ支援資金」で確認できます。

地域で長く事務所を構えている税理士は、その地域の金融機関の傾向を知っています。どこが創業案件に前向きか、どの支店の担当者が話を聞いてくれるか。この情報は公開されていません。

金融機関への紹介

税理士が取引のある金融機関を紹介するケースがあります。

紹介があれば審査が甘くなるわけではありません。ただし、その税理士が過去に紹介した案件が問題なく返済されていれば、担当者は「この人の紹介なら書類は整っているだろう」と考えます。入口の信頼が違います。

創業後の税務との接続

これが税理士に頼む最大の利点です。

融資を受けた後、返済しながら事業を回すことになります。月次で数字を見て、資金繰りを管理し、決算と申告をする。融資支援だけで終わる関係ではなく、その後も続くという点が、融資専門のコンサルタントとの違いです。

認定経営革新等支援機関としての関与

多くの税理士は「認定経営革新等支援機関」(認定支援機関)の認定を受けています。

一部の融資制度や補助金では、認定支援機関の関与が要件になっています。この場合、認定を受けていない業者では要件を満たせません。

税理士に依頼する費用

料金体系 相場
成功報酬型 調達額の2〜5%
着手金+成功報酬 着手金3〜10万円+2〜5%
顧問契約に包含 月額顧問料に含む(融資支援は無料)

1,000万円を調達して成功報酬3%なら30万円です。

「顧問契約すれば無料」の見方

税理士事務所でもっとも多いのが、この形です。

顧問契約を前提に、融資支援は無料または低額で行う。事務所としては、長期の顧問料で回収する考え方です。

悪い話ではありませんが、総額で判断してください。 月額顧問料3万円で3年契約なら108万円です。融資支援が無料でも、他所より顧問料が高ければ差額は消えます。

比べるときは「融資支援の費用」ではなく、「融資支援+今後2〜3年の顧問料」で並べてください。

顧問契約を断れるか

融資支援だけを単発で依頼できるかは、事務所によります。断られる場合もありますし、その場合は成功報酬型で受けてくれることもあります。

顧問契約を強く求められる場合、その事務所の関心が融資ではなく顧問料にある可能性を考えてください。

税理士なら誰でもよいわけではない

ここがもっとも重要な点です。

税理士の本来の業務は、税務申告、税務相談、税務代理です。融資支援はその周辺業務であり、扱っていない事務所も多くあります。

確認すべきこと

年間の創業融資支援の件数

年に数件しか扱っていない事務所と、月に数件扱う事務所では、相場観も金融機関との関係も違います。「何件くらい支援されていますか」と直接聞いてください。答えられない、あるいは曖昧な返答なら、実績は薄いと考えるべきです。

認定支援機関かどうか

認定を受けているかは、中小企業庁の検索システムで確認できます。

自社の業種の経験

飲食、建設、美容、製造では、審査で見られる点が違います。同業種の支援経験があるかを聞いてください。

創業案件を扱っているか

税理士事務所の中には、業歴のある会社の顧問が中心で、創業案件をほとんど扱わないところもあります。創業融資は既存企業の融資とは審査の考え方が異なります。

顧問税理士がいる場合

すでに税理士と契約している場合でも、その税理士が融資に強いとは限りません。

融資支援を扱っていない、あるいは実績が薄い場合、別の専門家に依頼することは問題ありません。ただし決算書や試算表の提供が必要になるため、事前に伝えておくほうがスムーズです。

税理士以外の選択肢

創業融資の支援を提供しているのは、税理士だけではありません。

財務コンサルタント:融資に特化しているぶん、計画書の作り込みや面談対策は手厚い傾向があります。一方で創業後の関与は薄くなりがちです。

行政書士:書類作成の代行が中心です。数値計画の設計や面談対策まで含まれるかは事務所によります。

中小企業診断士:経営全般の視点から事業計画を組み立てます。補助金申請との相性がよい傾向があります。融資の審査でも見られる資金計画の組み立て方は、事業計画における資金計画の作り方で詳しく解説しています。

商工会・商工会議所:無料で相談できます。制度融資のあっせんも扱っています。まず話を聞く先として現実的です。

金融機関の窓口:公庫の支店では事前相談ができます。無料で、しかも審査する側の視点が聞けます。

税理士に依頼する前に、商工会か公庫の窓口で一度相談してみることをおすすめします。無料ですし、自分のケースで何が必要かの見当がつきます。

頼まなくてよい場合

すべての人が専門家に依頼すべきだとは思いません。

自分で進めてよい場合

  • 調達希望額が300万円以下
  • 自己資金が必要額の3割以上ある
  • 同業種での実務経験があり、数字で説明できる
  • 決算書や試算表を自分で読める
  • 開業まで1か月以上の準備期間がある

この条件が揃っているなら、公庫の窓口で相談しながら自分で進められます。書式は公庫のサイトから入手でき、記入例も公開されています。

依頼を検討したほうがよい場合

  • 調達希望額が500万円を超える
  • 未経験の業種で始める
  • 自己資金が必要額の3割を下回る
  • 公庫と制度融資を併用したい
  • 開業日が決まっていて時間がない
  • 過去に融資を断られたことがある

判断の軸は費用と調達額の差です。30万円払って調達額が200万円増えるなら合理的ですし、変わらないなら自分でやるべきです。

初回相談で「いくら調達できそうか」の見立てを示してくれるかどうかが、その税理士の実力を測る目安になります。

依頼した場合の進み方

税理士に依頼してから着金までの流れです。公庫を使う一般的な例を示します。

初回相談(1〜2時間)

事業内容、開業予定日、自己資金の額と貯め方、これまでの職歴を確認します。ここで調達可能額の見立てと、公庫だけでいくか制度融資を併用するかの方針が決まります。

通帳(過去半年から1年ぶん)を持参してください。自己資金の出どころは通帳で確認するため、この場で見立ての精度が上がります。

計画書の作成(2〜3週間)

創業計画書、売上計画、収支計画、資金繰り表を作ります。税理士が一方的に作るのではなく、往復しながら詰める作業になります。

単価や客数の前提、営業の見込みは、事業をやる本人しか答えられません。ここに時間をかけるほど、面談での説明が楽になります。渡された数字は説明できませんが、自分で考えた数字なら答えられます。

申し込みと書類準備(1週間)

公庫へ申し込みます。見積書、賃貸借契約書、許認可の写しなど、事業内容に応じた書類を揃えます。

面談(申し込みから1〜2週間後)

所要時間は1時間前後です。想定問答を事前に確認し、税理士が同行する場合もあります。同行の可否と、同行時の追加費用の有無は事前に確認してください。

結果連絡・着金

融資決定後、契約書類のやり取りを経て指定口座へ入金されます。

全体で1か月半から2か月です。制度融資を併用する場合はさらに1か月前後を見込んでください。

税理士が面談に同行する意味

同行してもらうべきかは、よく聞かれます。

同行の利点は、数字に関する質問に補足できることです。「減価償却の考え方」「消費税の課税事業者になる時期」といった専門的な質問に、その場で答えられます。

一方、事業に関する質問は経営者本人が答えるべきです。なぜこの事業か、経験はどう活きるか、売上の根拠は何か。ここを税理士が代わりに答えると、担当者は事業への理解度を疑います。

同行してもらう場合も、主役は経営者本人です。税理士は補足に回るという役割分担を、事前に確認しておいてください。

なお、同行を別料金にしている事務所もあります。契約前に確認しておくとよいでしょう。

依頼しても変わらないこと

期待値を正しく持つために、書いておきます。

税理士に依頼しても、次の点は変わりません。

  • 自己資金の額:直前に用意した資金は評価されません
  • 経歴と事業の接続:未経験の業種であることは書き方では変えられません
  • 税金や社会保険料の滞納:完納が先です
  • 信用情報の記録:時間が経つのを待つしかありません
  • 面談で答えるのは本人:税理士が代わりに答えることはできません

逆に、変えられるのは計画の伝わりやすさ、調達先の選定、書類の完成度、そして準備にかかる時間です。

この線引きを最初に説明してくれるかどうかが、信頼できる相手かの判断材料になります。「必ず通ります」と言う事務所は避けてください。融資の可否を決めるのは金融機関であり、支援者が保証できるものではありません。

依頼する前に準備しておくこと

相談に行く前に、次を整理しておくと話が早く進みます。

何にいくら必要か:設備と運転資金の内訳をざっくりでよいので書き出す

自己資金がいくらあるか:通帳で確認できる形で

開業予定日:公庫で1か月半、制度融資を含めると2〜3か月かかるため

これまでの職歴:事業とどうつながるかを説明できる形で

この4点を持って相談すれば、相手の実力も見極めやすくなります。曖昧な返答しか返ってこないなら、その場で判断できます。

融資の後こそ税理士の出番

創業融資は、借りて終わりではありません。返済は翌月から、あるいは据置期間の後から始まります。

実際に苦しくなるのは、借りた直後ではなく半年から1年後です。想定より売上の立ち上がりが遅く、運転資金が計画より早く減っていく。そのときに追加調達しようとしても、創業融資は一度きりです。

これを防ぐには、月次で数字を見る習慣を作るしかありません。売上と経費と資金残高を毎月把握していれば、資金がいつ尽きるかを事前に読めます。3か月前に分かっていれば手は打てますが、尽きてから分かっても選択肢はほとんど残りません。

融資支援だけで終わる関係より、その後の資金繰りを一緒に見てくれる相手のほうが価値があるのは、このためです。

合同会社種火は、福岡県大川市と熊本市を拠点に、創業融資の支援から創業後の経理・資金繰り管理までを一貫してお引き受けしています。「今の自己資金でいくら借りられそうか」「そもそも今のタイミングでよいか」といった段階のご相談も承ります。無理があると判断した場合は、その理由も含めて率直にお伝えします。

融資の準備から借りた後の資金繰りまで一緒に見てほしい場合は、種火の社外CFOサービスで伴走しています。

よくある質問

Q. 税理士に頼めば融資は通りますか。

通るとは限りません。事業内容、自己資金、経歴が審査の中心にあり、それは書き方では変えられないためです。税理士ができるのは、落ちる理由をつぶし、調達額を最大化し、準備の時間を短くすることです。

Q. 顧問契約をしないと支援してもらえませんか。

事務所によります。単発の成功報酬型で受けてくれるところもあります。顧問契約を強く求められる場合は、総額で比較してから判断してください。

Q. 税理士と融資コンサルの両方に頼む必要はありますか。

通常は不要です。融資支援の実績がある税理士であれば一本化できます。顧問税理士が融資を扱っていない場合に、融資だけ別の専門家に依頼するという形はあります。

Q. 創業前でも相談できますか。

できます。むしろ開業前のほうが、計画ベースで審査されるため通りやすい面があります。物件や事業内容がある程度固まった段階で相談してください。

Q. 断られた後でも依頼できますか。

できます。ただし断られた理由の分析が先です。同じ内容で出し直しても結果は変わりません。実務的には6か月ほど空けてから、計画を作り直して再挑戦することになります。

Q. 融資が通らなかった場合、費用はどうなりますか。

成功報酬型であれば、原則として発生しません。着手金を支払っている場合、その返金は事務所の規定によります。契約前に必ず確認してください。

あわせて、再申請の支援が含まれるかも聞いておくべきです。半年後に作り直して再挑戦する際、追加費用が発生するのか、当初の契約の範囲内なのか。ここが曖昧だと、いちばん支援が必要な局面で頼れなくなります。

Q. 補助金の申請も一緒に頼めますか。

認定支援機関である税理士なら対応できることが多くあります。ただし補助金申請は融資とは別の専門性で、採択されるための書き方があります。補助金の支援実績も別に確認してください。

補助金は原則として後払いなので、入金までのつなぎ資金として融資を使う組み合わせが現実的です。両方を同時に設計できる相手なら、その分だけ価値があります。

Q. 遠方の税理士に依頼してもよいですか。

オンラインで完結する事務所も増えています。ただし創業融資では、地域の金融機関との関係が効く場面があります。制度融資は自治体ごとに条件が違うため、その地域を知っている事務所のほうが有利に働くことがあります。

面談への同行を希望する場合も、近隣の事務所のほうが現実的です。

まとめ

  • 税理士だから融資に強いとは限らない。年間の支援件数を必ず確認する
  • 費用は成功報酬で調達額の2〜5%。顧問契約に含まれる形も多い
  • 比較は「融資支援の費用」ではなく「支援+今後2〜3年の顧問料」の総額で
  • 税理士以外にも、商工会や公庫の窓口という無料の相談先がある
  • 調達額300万円以下で自己資金が十分なら、自分で進められる
  • 依頼しても、自己資金・経歴・信用情報は変えられない
  • 融資の後の資金繰りまで見てくれる相手を選ぶ

創業融資は、事業の最初の意思決定です。誰に相談するかを決める前に、まず自分の状況を整理してみてください。必要額、自己資金、開業予定日、職歴。この4つが書き出せていれば、相談の場で相手の実力も見極められます。