資金繰り管理のシステムを調べ始める会社には、たいてい共通の悩みがあります。

「エクセルで作ってはいるが、更新が追いつかない」「作った本人しか分からない」「そもそも作っていない」。

先に結論をお伝えすると、多くの中小企業はエクセルで足ります。 システムが要るのは、エクセルでは限界が来る特定の条件が揃ったときです。

この記事では、その線引きをはっきりさせます。導入すべき状態でないなら、費用をかけずに済むほうがよいからです。

資金繰り管理システムでできること

主な機能は次のとおりです。

機能 内容
実績の自動取込 銀行口座・会計ソフトと連携し、入出金を自動で反映
将来予測 売掛金・買掛金の期日から、先の残高を自動計算
資金繰り表の出力 月次・週次・日次での資金繰り表
複数口座の一元管理 口座をまたいだ残高の把握
シナリオ比較 売上が◯%落ちた場合、といった試算
共有・権限管理 複数人での閲覧・編集

エクセルとの決定的な違いは「実績の自動取込」です。手入力が不要になるため、更新が滞りません。

エクセルで作る場合は、日本政策金融公庫が公開している書式も使えます(日本政策金融公庫「各種書式ダウンロード」)。

費用相場

種類 月額
会計ソフト付属の機能 会計ソフト料金に含む
資金繰り特化のクラウドサービス 5,000〜3万円
経営管理ツールの一機能 1万〜10万円

多くの会計ソフトには資金繰り表の出力機能が付いています。まずそれで足りないかを確認してから、専用サービスを検討してください。

エクセルで足りる規模

次の条件に当てはまるなら、システムは不要です。

  • 銀行口座が1〜2つ
  • 入出金のパターンが定型的(毎月同じ取引先・同じ費目)
  • 見るのが経営者1人
  • 月次で見れば足りる(日繰りが不要)
  • 従業員20名以下

この規模なら、月ごとに「前月繰越・入金・出金・当月末残高」を並べるだけの表で十分です。作成に30分、毎月の更新に15分程度です。

むしろエクセルのほうが優れている点もあります。自社の事情に合わせて自由に項目を作れること、他人に見せずに済むこと、費用がかからないこと。

システムは決まった型に業務を合わせる面があるため、小規模なうちは窮屈に感じることもあります。

エクセル管理の限界はどこに来るか

「エクセルで足りる」と書きましたが、限界は必ず来ます。どこで来るのかを具体的に示します。

限界1:更新が止まる

もっとも多い形です。作った直後は毎月更新していたのに、忙しい月に飛ばし、そのまま数か月放置される。

エクセルは手入力が前提なので、更新の動機が続かないと止まります。止まった瞬間に、資金繰り表は判断材料としての価値を失います。

限界2:作った本人しか分からない

自社に合わせて作り込むほど、数式が複雑になります。作成者が休んだり退職したりすると、誰も触れなくなる。

中小企業でよく起きる属人化です。ファイルは残っているが、更新できる人がいない。

限界3:版が分かれる

複数人で共有すると、「資金繰り表_最新.xlsx」「資金繰り表_最新_修正版.xlsx」が並びます。どれが正しいか分からなくなり、判断を誤ります。

限界4:口座が増えて集計が破綻する

金融機関が3つを超えると、残高の合算に手間がかかります。口座間の資金移動があると二重計上も起きます。

限界5:予測が実態と合わなくなる

取引先が増えると、入金予定の管理が煩雑になります。「この売掛金はいつ入るか」を都度確認していては続きません。

限界が来たかどうかの見分け方

次の質問に答えてみてください。

  • 直近の資金繰り表は、いつ更新しましたか
  • 自分以外に更新できる人はいますか
  • 3か月後の残高を、いま即答できますか

ひとつでも詰まるなら、限界が来ています。エクセルが悪いのではなく、更新が続く仕組みになっていないということです。

その場合の選択肢は2つあります。システムを導入して自動取込にするか、記帳ごと外に出して数字が出てくる状態を作るか。どちらも「自分で入力しなくても表が最新になる」ことを目指しています。

システムを検討すべき状態

一方、次のいずれかに当てはまるなら、導入を検討する価値があります。

更新が追いつかず、表が古い

もっとも多い理由です。エクセルの資金繰り表を作ったものの、入力が面倒で2か月も3か月も更新していない、という状態。

古い資金繰り表は、無いのと同じです。判断に使えません。自動取込があれば、この問題は解消します。

口座が3つ以上ある

複数の金融機関と取引していると、口座ごとの残高を合算する作業が発生します。手作業では漏れやすく、時間もかかります。口座間の資金移動があると、二重計上も起きやすくなります。

日繰りが必要

支払いが集中する時期に、日単位で残高を追う必要がある場合です。エクセルでも作れますが、日数分の列が増えるため更新の手間が跳ね上がります。

複数人で見る

経理担当と経営者、あるいは経営陣で共有する場合。エクセルだとファイルの版が分かれ、どれが最新か分からなくなります。

売掛・買掛の件数が多い

取引先が数十社を超えると、入金・支払予定の管理が煩雑になります。会計ソフトの債権債務データと連携できると効率が変わります。

金融機関に定期的に提出している

融資を受けている場合、資金繰り表の提出を求められることがあります。体裁の整った表を毎月出せる状態にしておくと、やり取りが楽になります。

導入して失敗する典型例

連携させずに手入力を続ける

システムを入れても、銀行口座や会計ソフトと連携させなければ、エクセルと変わりません。むしろ操作を覚える分だけ手間が増えます。

導入時に、口座連携と会計ソフト連携を必ず設定してください。

予測の前提を決めていない

将来の残高を計算するには、売掛金がいつ入金されるか、買掛金をいつ支払うかの前提が要ります。

「月末締め翌月末払い」といった条件をシステムに登録しないと、予測が実態と合いません。この設定を面倒がって飛ばすと、出てくる数字が使えなくなります。

見る人がいない

導入したものの、誰も開いていない、というケース。

資金繰り表は見て判断するためのものです。月に一度、必ず見る時間を決めてください。決まった日に見る習慣がなければ、システムは費用だけの存在になります。

会計ソフトの機能で足りていた

専用サービスを契約した後で、使っている会計ソフトに同等の機能があったと気づく。よくある話です。

契約前に、いま使っているソフトで何ができるかを必ず確認してください。

選ぶときの確認点

1. 使っている会計ソフト・銀行と連携できるか

これが最優先です。連携できないと自動取込の利点が消えます。地方銀行や信用金庫は対応していない場合があるので、口座名を挙げて確認してください。

2. 予測の精度をどう作るか

売掛・買掛の期日をどこから取るのか。会計ソフトから自動で取れるのか、手入力なのか。

3. 出力形式

金融機関に提出できる形式で出せるか。エクセルで書き出せるか。

4. 誰が使うか

経理担当が操作するのか、経営者が自分で見るのか。画面の分かりやすさは実際に触って確認してください。多くのサービスに無料トライアルがあります。

5. 解約時にデータを取り出せるか

過去の実績データを持ち出せるかを契約前に確認してください。

まず何から始めるか

システムの検討より先にやるべきことがあります。

事業用の口座を分ける

個人事業主や、社長の個人口座と混ざっている会社では、これが最初です。分かれていないと、自動取込しても不要な取引が大量に入ってきます。

6か月先まで手で引いてみる

まずエクセルで6か月分の資金繰り表を作ってみてください。項目は4つで足ります。

項目 内容
前月繰越 前月末の現金・預金残高
入金 売掛金の回収、現金売上、借入
出金 仕入、人件費、家賃、返済、税金
当月末残高 前月繰越+入金-出金

支出は多くが決まっています。 家賃、リース料、保険料、借入の返済、税金の納付時期。これらを先に埋めるだけで、資金が厳しくなる月が見えてきます。

売上は確定している案件だけを入れてください。見込みを入れると表が楽観的になり、意味を失います。

作ってみて、続かなければシステムを検討する

一度手で作ってみると、自社に何が必要かが分かります。更新が続かない、口座が多くて集計が大変、といった具体的な不便が見えてから選べば、選定を誤りません。

最初からシステムを探すより、この順番のほうが失敗しません。

資金繰り表で見るべき数字

システムを入れても、見るべき数字が分からなければ意味がありません。最低限、次の4点を押さえてください。

いつ残高が最も薄くなるか

6か月先まで引いた表で、最も残高が少なくなる月を特定します。そこが自社の資金繰りの山場です。

その月に、月商の1か月分を下回るようなら要注意です。想定外の支出や入金遅延が1件起きただけで、支払いが回らなくなります。

固定的に出ていく額

家賃、人件費、リース料、保険料、借入返済。売上がゼロでも出ていく金額の合計です。

これを月商と比べると、どれだけ売上が落ちたら耐えられなくなるかが分かります。固定費が月300万円なら、粗利率30%の事業では月商1,000万円が損益分岐点です。

借入返済が資金を圧迫していないか

元金の返済は経費になりません。利益から支払われます。

「利益と減価償却費の合計」と「年間の返済額」を比べてください。返済額のほうが大きければ、返済のたびに手元資金が減る構造です。この状態が続くなら、条件変更(リスケジュール)を検討する段階にあります。

税金・社会保険料の納付時期

法人税、消費税、社会保険料、固定資産税。これらは支払いが集中する時期があります。

とくに消費税は預かっているだけのお金です。売上と一緒に入ってくるため自社の資金のように見えますが、納付時期には出ていきます。資金繰り表に必ず織り込んでください。

予測と実績のズレを見る

資金繰り表を作り続けると、予測と実績のズレが見えてきます。ここに自社の癖が出ます。

入金が予測より遅い:取引先の支払サイトを実態に合わせて修正します。契約上は月末払いでも、実際は翌月5日に入る、といったズレがあります。

出金が予測より多い:計上漏れの費目があります。少額でも毎月出ているものを拾ってください。

売上予測が常に上振れしている:見込み案件を入れすぎています。確定分だけに絞ってください。

毎月このズレを確認して前提を修正すると、3か月ほどで予測の精度が上がります。当たらない予測を作り続けるより、ズレを見て直すほうが早く精度が上がります。

数字を見る時間をどう作るか

資金繰り管理でつまずく本当の原因は、ツールではなく時間です。

経理は売上を生まない仕事なので後回しになり、気づけば数か月分の入力が溜まっている。その状態では、システムを入れても入力の手間が減るだけで、見る時間は生まれません。

記帳を外に出すという選択肢があります。月数万円で入力作業から解放され、月次の数字が定期的に出るようになります。作業を減らすことより、数字を見る時間を作ることに意味があります。

合同会社種火は、福岡県大川市と熊本市を拠点に、経理代行と資金繰り管理をお引き受けしています。月次の数字を早くお出しし、資金がいつ厳しくなるかを事前にお伝えするところまでを標準にしています。

「システムを入れるべきか、そもそも何から手をつけるべきか」という段階からご相談ください。エクセルで足りる規模であれば、率直にそうお伝えします。

資金繰りや財務の数字を毎月一緒に見てほしい場合は、種火の社外CFOサービスで伴走しています。

よくある質問

Q. 会計ソフトの資金繰り表だけで足りますか。

多くの中小企業では足ります。会計ソフトの資金繰り表は実績ベースが中心で予測が弱い場合がありますが、月次で残高を追うだけなら十分です。予測を精緻にしたい段階になってから専用サービスを検討してください。

Q. 日繰り表は必要ですか。

支払いが特定の日に集中する、あるいは残高が薄い状態が続いている場合は必要です。余裕があるうちは月次で足ります。

Q. 資金繰り表は何か月先まで作りますか。

最低3か月、できれば6か月先までです。融資の申し込みから着金まで1〜3か月かかるため、3か月先が見えていないと調達が間に合いません。

Q. 予測が当たりません。

売上の予測を確定分だけに絞ってください。見込みを入れると必ず楽観側にずれます。また、毎月「予測と実績の差」を確認すると、自社の癖が分かってきます。

Q. 誰が作るべきですか。

作成は経理担当や代行会社でも構いませんが、見て判断するのは経営者です。数字の意味が分からないまま渡されても使えないので、最初は一緒に見る形をおすすめします。

Q. 金融機関に提出する資金繰り表は何が違いますか。

基本の構造は同じですが、実績と予測を分けて示すこと、予測の根拠を説明できることが求められます。融資の申し込み時は、直近6か月の実績と今後6か月の予測をセットで用意すると話が早く進みます。

まとめ

  • 口座1〜2つ・月次で足りる・見るのが1人なら、エクセルで十分
  • システムが要るのは、更新が追いつかない/口座3つ以上/日繰りが必要/複数人で見る場合
  • 費用は月5,000〜3万円。まず会計ソフトの機能で足りないか確認する
  • 導入しても、連携させない・予測の前提を決めない・誰も見ない、では意味がない
  • まず6か月分を手で作ってみる。続かなければシステムを検討する
  • ツールより先に、数字を見る時間を作れるかが本質

資金繰り管理の目的は、資金が尽きる3か月前に気づくことです。それができるなら、手段は何でも構いません。

システムを探す前に、まず通帳を開いて、今月と来月の入出金を書き出してみてください。それだけで、自社に何が足りていないかが見えてきます。